抗菌薬の適切な投与法を決定する際に、PK/PD理論を考慮することが重要です。
PK/PD理論は、薬物動態(Pharmacokinetics∶PK)と薬力学(Pharmacodynamics∶PD)を組み合わせて、抗菌薬の効果や安全性を最適化するために用いられます。
以下は、PK/PD理論に基づく抗菌薬の投与方法の具体的な例です
1. βラクタム系抗菌薬
例: ペニシリン、セフェム系、カルバペネム系(β-ラクタム剤)
これらは全て、構造式にβ-ラクタム環を持っています。
PK/PD理論に基づいて、最小発育阻止濃度(MIC)を超える濃度を維持する「時間の長さ」が重要です。(time above MIC)
1回の投与量を増やし、投与回数を減らすことに意味はありません。
通常、投与間隔を調整してMICをカバーします。(分3や分4など)
重症であるほど、なるべく等間隔の時間投薬が効果の決め手となります。
服薬指導時に、なるべく等間隔で服用するように説明しましょう。
2. アミノグリコシド系抗菌
PK/PD理論では、ピーク濃度/MIC比が殺菌力の決め手です。(Cmax/ MIC)
1日1回大量投与が有効です。
ゲンタマイシン注先行投与→他の抗菌薬の併用療法が有効な場合があります。
処方せんやOTCで「リンデロンVG」「ゲンタシン軟膏」など、
これらの軟膏は、漫然と使わないように指導してください。
3. キノロン系抗菌薬
AUC/MIC比あるいはピーク濃度を最大化することで、より高濃度の薬剤を血液中の菌に浴びせて、
その後も、PAE効果(持続的に殺菌をし続ける効果)により薬物血中濃度が下がってきても殺菌作用は維持されます。(AUC/MIC、あるいはCmax/MIC)
そのため1日1回投与が基本です
マグネシウム、アルミニウムなどとキレート結合するため、併用薬には十分注意してください。
酸化マグネシウム、SM散などの消化剤、マーロックスは要注意です。
4. グリコペプチド系抗菌薬
AUC/MIC比を目安に投与量を調整します。初期投与量は多め(倍量)が原則です。
病院ではバンコマイシン、テイコプラニンは血中濃度測定がとても重要です。現在は、他の薬剤でもあるかもしれません。
解析ソフトを使ってシュミレーションし、担当医に速やかに届けましょう。
投与初期以降の薬の使い方が悪いと、有効濃度域が狭く、無効域や中毒域に移行しやすいからです。
結果的に効かなくて、高額な抗MRSA薬をダラダラと必要以上に使ってしまうことになります。
抗MRSA薬の薬価を今一度確認してください。他の抗菌薬に比べて相当高いはずです。
できればどのような投与法にすれば、投与総額がより低薬価で、効果は十分な投与法になるか調べてください。
私は、このテーマで2004年度の病院大賞を受賞しました。調べる価値は十分あると思います。
最後に
今回は主に、病院薬剤師で感染制御専門や認定を持ち、日々活動している皆様へのアドバイスです。
感染症で苦しんでいる患者さまを救うことができる貴重な経験を積み重ねましょう。
これは薬局薬剤師では体験困難なことです。病院で他のチーム医療でも、あまり経験した記憶がありません。
そのうちに「グラム染色」なども興味が湧いてくるかもしれません。
ペニシリン系抗菌薬の偉大さがわかると思います。
以上、ご参考になれば幸いです。
参考資料
抗菌薬のPK/PDガイドライン|委員会報告・ガイドライン|公益社 …. https://www.chemotherapy.or.jp/modules/guideline/index.php?content_id=106.