▶【パーキンソン病治療薬】症状をコントロールし、生活の質を高めるガイド

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【パーキンソン病治療薬】症状をコントロールし、生活の質を高めるガイド

パーキンソン病の治療は日進月歩で進化しており、多岐にわたる薬剤を症状や病期に合わせて使い分けることが重要です。

今回は、パーキンソン病治療の主役となる薬剤について、

その分類、特徴、用法用量、そして最新の注意点をわかりやすく解説します。

 

1. 治療の根幹:ドパミン補充療法

パーキンソン病は、脳内の神経伝達物質であるドパミンが不足することで起こります。

そのため、治療の基本は、このドパミンを補充するか、ドパミンの働きを補強することにあります。

 

① L-ドパ製剤(レボドパ)

代表的な薬品名

  • マドパー
  • ネオドパストンなど
  • (L-ドパと脱炭酸酵素阻害薬の合剤)

分類と特徴

ドパミンの前駆体で、血液脳関門を通過し脳内でドパミンに変換されます。

パーキンソン病の主要症状(振戦、固縮、無動)に対して最も強力な効果を発揮する、治療のゴールドスタンダードです。

脱炭酸酵素阻害薬(カルビドパやベンセラジド)と組み合わせることで、脳に到達する前に分解されるのを防ぎ、効果を高めます。

用法用量

通常、少量から開始し、効果を見ながら徐々に増量します(漸増)。

食事の影響を受けるため、食前や食間が推奨されることもありますが、合剤の種類によって異なります。

例(マドパー配合錠)

初回1日1~3錠を1~3回に分け、食後に経口投与し、2~3日毎に漸増。

維持量は1日3~6錠が目安です。(年齢、症状により適宜増減)

 

注意点

長期使用による合併症

服用期間が長くなると、薬効の持続時間が短くなる「ウェアリング・オフ現象」や、意図しない動きが生じる「ジスキネジア」

などの運動合併症が現れることがあります。

悪心・嘔吐

導入初期に現れやすいですが、通常は体が慣れると軽減します。

急な中止の危険性

自己判断で急に中止・減量すると、悪性症候群(高熱、意識障害、筋硬直など)を誘発する恐れがあるため、必ず医師の指示に従い漸減します。

 

2. ドパミンの作用を補強する薬剤

② ドパミン受容体作動薬(ドパミンアゴニスト)

代表的な薬品名

内服:

  • プラミペキソール(ビ・シフロール®)
  • ロピニロール(レキップ®)
  • カベルゴリン(カバサール®)

貼付剤:

  • ロチゴチン(ニュープロパッチ®)

分類と特徴

L-ドパとは異なり、直接ドパミン受容体を刺激して、ドパミンが足りない状況でもその働きを補います。

L-ドパに比べて効果はマイルドですが、L-ドパ長期服用後の運動合併症の出現を遅らせる目的で、

比較的若い患者さんの初期治療に使われたり、L-ドパとの併用で効果の安定化を図ったりします。

 

貼付剤(ロチゴチン:ニュープロパッチ®)

24時間かけて安定した薬効が得られるため、夜間の症状や「オフ」症状の軽減に有用です。

用法用量

L-ドパ同様、少量から徐々に増やします(漸増)。

貼付剤は1日1回、皮膚に貼付し24時間で貼り替えます(肩、上腕部、腹部、臀部など)。

例(ロチゴチン:ニュープロパッチ®)

通常、成人には4.5mg/日から開始し、1週間毎に4.5mgずつ増量し維持量を定めます(標準9mg~36mg)。

 

注意点:

悪心・嘔吐

L-ドパより強い悪心・嘔吐が出やすいため、導入時にドンペリドンなどの吐き気止めを併用することがあります。

精神症状

幻覚、妄想などの精神症状や、突発的な眠気(突然の睡眠発作)が出やすいとされています。

車の運転など危険を伴う作業は避ける必要があります。

衝動制御障害 (ICD)

病的な賭け事、過食、性欲亢進などの衝動制御障害が現れることがあり、本人や家族は注意が必要です。

薬剤離脱症候群

急激な減量や中止により、無感情、不安、疲労感、疼痛などの薬剤離脱症候群が現れることがあるため、中止・減量時は必ず漸減します。

 

③ MAO-B阻害薬

代表的な薬品名

  • セレギリン(エフピー®)
  • ラサギリン(アジレクト®)
  • サフィナミド(エクフィナ®)

分類と特徴

脳内でドパミンを分解する酵素(モノアミン酸化酵素B型:MAO-B)の働きを抑えることで、ドパミンの濃度を保ち、薬効を長持ちさせます。

L-ドパの効果が薄れてきた際の「ウェアリング・オフ」対策として併用されることが多いです。

特にサフィナミド(エクフィナ®)は、MAO-B阻害作用に加え、

ドパミン以外の神経伝達物質にも作用する新しいタイプの薬剤として注目されています。

用法用量

1日1回経口投与が基本です。

 

注意点

特定の薬剤(三環系抗うつ薬、SSRIなど)との併用でセロトニン症候群などの重篤な副作用を引き起こす可能性があるため、飲み合わせに注意が必要です。

 

④ COMT阻害薬

代表的な薬品名

  • エンタカポン(コムタン®)
  • オピカポン(オンジェンティス®)

分類と特徴

L-ドパが脳外で分解されるのを防ぐ酵素(カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ:COMT)の働きを阻害し、

L-ドパの脳への移行を増やし、作用時間を延長させます。

これも主に「ウェアリング・オフ」対策としてL-ドパと併用されます。

用法用量

L-ドパの各服用時と同時に経口投与します(エンタカポン:コムタン®)。

オピカポン(オンジェンティス®)は1日1回就寝前に単独で服用します。

 

注意点

尿や汗が黒っぽく変色することがありますが、薬剤の色であり基本的には問題ありません。

 

3. その他、症状に応じた薬剤

⑤ アマンタジン(アマンタジン)

分類と特徴

ドパミン遊離促進作用やNMDA受容体拮抗作用を持つとされる薬剤で、

初期のパーキンソン症状や、L-ドパ長期使用後のジスキネジア(不随意運動)の軽減に用いられます。

注意点

腎機能障害のある方や高齢者では、用量調節が必要です。

 

⑥ 抗コリン薬

代表的な薬品名

  • トリヘキシフェニジル(アーテン®)
  • ビペリデン(アキネトン®)

分類と特徴

アセチルコリンの働きを抑えることで、主に振戦(ふるえ)に対して有効ですが、

認知機能低下などの副作用から、近年は使用頻度が低下傾向にあります。

注意点

口渇、便秘、排尿障害、認知機能障害(せん妄など)のリスクが高く、特に高齢者では慎重に使用されます。

 

治療における重要な注意点と最新の動向

パーキンソン病の薬物治療は、単に症状を抑えるだけでなく、生活の質(QOL)の維持と運動合併症の予防を念頭に行われます。

個別化された治療

患者さんの年齢、病期、優位な症状、生活スタイル、併存疾患などを総合的に判断し、

L-ドパを中心にドパミンアゴニストMAO-B阻害薬などを組み合わせる「多剤併用療法」が一般的です。

服薬アドヒアランス

薬の効果を安定させるためには、決められた時間、決められた量を規則正しく服用することが極めて重要です。

特にL-ドパは、服用時間がわずかにずれるだけで症状に影響が出ることがあります。

非運動症状への対応

パーキンソン病では、便秘、睡眠障害、うつ、認知機能障害などの「非運動症状」も生活の質を大きく低下させます。

これらの症状に対しては、パーキンソン病薬とは別に、

それぞれの症状に応じた薬剤(抗うつ薬、睡眠導入薬など)が用いられます。

 

最新のドラッグ・デリバリー・システム

飲み薬以外にも、ロチゴチン(ニュープロパッチ®)のような貼付剤のほか、

胃ろうから持続的にL-ドパを投与するレボドパ・カルビドパ経腸液療法(LCIG)

皮膚に埋め込む持続注入ポンプシステムなどの開発も進んでいます。

パーキンソン病の薬は、症状を改善する強力なツールですが、副作用や運動合併症の管理が常に伴います。

治療にあたっては、必ず神経内科医と密に連携をとり、

症状の変化や気になる副作用があればすぐに相談することが大切です。

以上、ご参考になれば幸いです。

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