百日咳は、百日咳菌(Bordetella pertussis)により引き起こされる感染症で、主に幼児に多く見られる呼吸器疾患です。
特に症状が重くなると呼吸困難を引き起こし、時には合併症を招くこともあります。
ここでは、百日咳の治療に用いられる抗菌薬について、最新情報を基に詳しく解説します。
百日咳の特性と症状
百日咳は、一般的に以下の3つの段階に分けられます。
1. カタル期
これは最初の1〜2週間で、普通の風邪と似た症状(鼻水、咳、軽い発熱)があります。
2. 痙咳期
この段階では、特徴的な咳が現れます。激しい咳が数回続き、その後に「吸い込む音」(百日咳特有の音)が聞こえます。
この状態が数週間から数ヶ月続くことがあります。
3. 回復期
咳の頻度が徐々に減少し、最終的に回復します。
早期に治療を開始することで、症状の軽減と感染の拡大防止が可能になります。
有効な抗菌薬
百日咳の治療において主要な抗菌薬は、マクロライド系の抗生物質です。
以下は、具体的に使用される抗菌薬とその特徴です。
1. エリスロマイシン
エリスロマイシンは、百日咳の第一選択薬として広く使用されています。
この抗生物質は、病原菌の増殖を抑えることで症状を軽減します。
しかし、治療開始のタイミングが重要で、カタル期の早期に投与することで、より効果的です。
2. クラリスロマイシン
クラリスロマイシンは、エリスロマイシンの効果を持ちながら、より洗練された化学構造を持っています。
そのため、より効果的で副作用も少ないとされています。一般的に、7日間の服用が推奨されています。
3. アジスロマイシン
アジスロマイシンは、特に短期間の投与が特徴です。通常、3日間の投与で効果を発揮します。
これにより患者の負担が軽減されるため、治療の選択肢として選ばれることが多いです。
4. トリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP-SMX:ST合剤)
マクロライド系抗菌薬に対してアレルギーがある患者やマクロライド耐性株が疑われる場合には、
トリメトプリム/スルファメトキサゾール(バクタ®、ダイフェン®)が代替薬として使用されます。
ただし、効果に関してはマクロライド系よりやや劣るとされています。
抗菌薬の使用タイミングと治療の流れ
百日咳の治療は、以下のような流れで行われます。
1. 診断
医師による診断後、早期に抗菌薬を処方されます。
2. 投薬
抗菌薬は、カタル期の初期に投与することで、百日咳菌の感染力を減少させます。
具体的には、抗菌薬を投与してから6日目以降には感染力が大きく低下します。
3. 経過観察
抗菌薬の影響で症状は軽減するものの、咳が続くことがあります。
これは、抗菌薬が消毒効果を持つ一方で、既存の咳の刺激を取り除くことはないからです。
4. リハビリテーション
百日咳から回復した後も、咳が続く患者にはリハビリテーションが推奨されます。
これにより、呼吸機能を改善し、生活の質を向上させます。
最近の研究と知見
最近の研究によれば、百日咳菌の中にはマクロライド耐性株も存在します。
この耐性株は、従来の抗菌薬による治療効果を薄れさせてしまうリスクがあります。
そのため、特に流行が続く地域では、抗菌薬の使い方や選択肢を見直す必要があります。
また、抗菌薬の投与によっても咳が完全に治まらない理由として、百日咳の病因であるトキシン(「毒素(toxin)」微生物などが産生する有毒物質)の影響が挙げられています。
したがって、単に抗菌薬を使用すればすぐに回復するというわけではなく、忍耐強い治療が求められます。
まとめ
百日咳は、適切な抗菌薬によって治療可能ですが、早期の診断と投薬が非常に重要です。
主にマクロライド系抗菌薬(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン)が有効であり、症状の軽減が期待できます。
新たな耐性株の存在についても十分な注意が必要です。
もし疑わしい症状がみられた場合は、早めに医療機関を受診することが望ましいでしょう。
以上、ご参考になれば幸いです。
参考資料
[百日咳に関しての抗菌薬の処方のタイミングと種類の選択](https://www.jpca-infection.com/column-detail.php?nid=95)
[百日咳、抗生剤で治療しても咳が続くのはなぜ?](https://hirotsu.clinic/blog/%E7%99%BE%E6%97%A5%E5%92%B3%E3%80%81%E6%8A%97%E7%94%9F%E5%89%A4%E3%81%A7%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%97%E3%81%A6%E3%82%82%E5%92%B3%E3%81%8C%E7%B6%9A%E3%81%8F%E3%81%AE%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%9C%EF%BC%9F)
[[院長コラム]百日咳に効く抗菌薬は?](https://kashiwa.child-clinic.or.jp/%EF%BC%BB%E9%99%A2%E9%95%B7%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%83%A0%EF%BC%BD%E7%99%BE%E6%97%A5%E5%92%B3%E3%81%AB%E5%8A%B9%E3%81%8F%E6%8A%97%E8%8F%8C%E8%96%AC%E3%81%AF%EF%BC%9F/)
[百日咳](https://kunichika-naika.com/subject/pertussis)
[百日咳 – 13. 感染性疾患 – MSDマニュアル プロフェッショナル版](https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/13-%E6%84%9F%E6%9F%93%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0%E9%99%B0%E6%80%A7%E6%A1%BF%E8%8F%8C/%E7%99%BE%E6%97%A5%E5%92%B3)
[百日咳](https://shizuku-naika.com/top/infection/whooping-cough/)
[クイズで解決!「マクロライド耐性百日咳」の抗菌薬の選び方 …](https://pharmacist.m3.com/column/antibiotic/6405)
[何だか今年やたらと流行っている「百日咳」って何?大人が …](https://www.katoiin.info/blog/2025/05/post-282-862941.html)
[百日咳にご注意ください – ブログ|滋賀県守山市](https://kidowaki-clinic.jp/blog/?p=1341)
[集中治療を必要としたマクロライド耐性百日咳菌感染症の2 …](https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/46/540/article/130/index.html)
