この時期に最も大切なのは、「休養」を最優先にすることです。
しかし、「休養」と言われても、何をすればいいのか、何を考えてしまうのか、それすらも重荷に感じてしまうかもしれません。
1. まずは「ゼロ」を目指しましょう:頑張らないことの重要性
最新のうつ病治療ガイドラインでも、急性期〜休養期における最重要事項は「心身の休息」とされています。
しなくていいこと(自分を責める考え)
「早く治さなければ」という焦り
休職期間がどれくらいになるか、仕事のことがどうなっているか、といった未来への不安は、今は考えなくても大丈夫です。
不安を感じるのは自然なことですが、「今は考えない」と意識的に保留しましょう。
「何か生産的なことをしなければ」という義務感
散歩や読書、趣味など、一般的に「良い」とされることも、今のあなたにとっては大きなエネルギー消費になります。
何かを「する」必要は一切ありません。
「自分はダメだ」という自己否定
これは病気が作り出す、もっとも厄介な「認知の歪み」の一つです。
あなたはダメではありません。脳が休養を求めているだけです。
今、優先すべきこと(エネルギー消費を最小限に)
「寝られるだけ寝る」
睡眠は脳の修復作業です。夜だけでなく、昼間も眠いなら遠慮なく寝ましょう。
「何もせずにいる時間」を確保する
横になる、座る、ぼーっと天井を見る、それだけで十分な休養です。
「病気のせい」と割り切る
やる気が出ない、体が重い、不安になる。
これらはすべて「うつ病の症状」です。「自分のせいではない」と、何度も心の中で繰り返してください。
2. 医療とつながる:あなたの心を守る砦
休職しているということは、すでに医療機関にかかっているかと思いますが、治療を継続することが最も重要です。
治療の継続とセカンドオピニオン
医師との信頼関係
主治医には、今の「鉛のような重さ」を正直に伝えましょう。
症状の変化や薬の副作用など、小さなことでも共有することで、治療方針が調整される可能性があります。
服薬の徹底
薬は脳の神経伝達物質のバランスを整える手助けをしてくれます。
症状が少し楽になったからといって、自己判断で服薬を中断したり、量を減らしたりするのは絶対に避けてください。
必要であればセカンドオピニオンも検討
もし今の治療で全く改善が見られない、あるいは医師との相性に疑問を感じる場合は、別の専門医を探すことも選択肢の一つです。
ただし、体力を消耗するので、家族や信頼できる人に相談して慎重に進めましょう。
3. 日常生活に「微細なルーティン」を取り入れる
何もする気がしない中で、「ルーティン」なんて無理だ、と思われるかもしれません。
ここで言うルーティンは、「誰にも褒められなくていい、達成度1%でもいい、最小限の行動」を意味します。
うつ病の回復期には、生活リズムの乱れが症状悪化の引き金になることが最新の研究でも示されています。
しかし、一気に完璧なリズムを取り戻すのは不可能なので、まずは「光」と「食事」の二つを軸にします。
光を取り戻す:覚醒と睡眠の質を上げる
朝、少しだけ日光を浴びる
これは最も簡単にできる「体内時計のリセット」です。
起きたらカーテンを少し開け、ベランダに出る必要はありません。
窓越しで構わないので、1分でもいいから光を感じてみましょう。
光はセロトニン(幸福感や心の安定に関わる神経伝達物質)の分泌を促します。
入浴で体温を上げる
体温が上がった後に下がるタイミングで眠気が誘発されます。
熱すぎるお湯は避け、ぬるめのお湯にゆっくり浸かることで、心身のリラックス効果も高まります。
栄養のサポート:脳の燃料切れを防ぐ
「とりあえず一口」を目標に
食欲がない時でも、脳はエネルギーを求めています。
調理が大変なら、ゼリー飲料、ヨーグルト、バナナなど、準備が不要なもので構いません。「何か胃に入れる」を最優先にしてください。
カフェイン、アルコールは控える
これらは一時的に気分を高揚させますが、その後の反動でかえって不安や落ち込みを強める可能性があります。
4. ゆるやかな環境とのつながり方
「人に会いたくない」「連絡を取りたくない」という感情も、うつ病の症状の一つです。無理に交流する必要はありません。
居心地の良い「シェルター」を作る
環境のノイズを減らす
散らかっている部屋を見ると、それだけでエネルギーを消耗します。
完璧な掃除は無理ですが、目に入る範囲のゴミを一つ捨てる、換気をするなど、1%の改善を目指しましょう。
スマホ・SNSとの距離
SNSは、他人の「元気な部分」だけが目に入り、自分と比較して落ち込みやすいツールです。
休養期は、スマホを手の届かないところに置く、通知をオフにするなど、意識的に距離を置きましょう。
伝えることの許可
家族・信頼できる人への「お願い」
もし身近に理解者がいるなら、「今は何もできない」「ただ話を聞いてくれるだけでいい」という状態を正直に伝えておきましょう。
何かをしてもらう罪悪感を持つ必要はありません。今はあなたが助けられる時です。
会社との連絡は最小限に
会社への連絡は、診断書や復職時期の調整など、必要最低限に絞り、できれば家族や産業医などを介して行うのが理想的です。
5. 将来の回復期を見据えた「認知のワーク」
体が少しずつ動くようになってきた、あるいは「ぼーっとする時間」に不安な思考が巡ってしまう、
という段階で有効なのが、認知行動療法(CBT)の考え方を取り入れたワークです。
これは、回復期の再発予防にも非常に役立ちます。
思考の「クセ」に気づく
あなたの自己否定的な考え(「自分はダメだ」「何もできない」)は、しばしば自動思考と呼ばれます。
思考を記録する
「体が重い」→「私は怠け者だ」
証拠を探す
本当に怠け者でしょうか?過去に仕事を頑張った証拠、今休んでいるのが病気のせいであるという医師の診断は?
より現実的な考えに置き換える
これは「無理やりポジティブに考える」ことではありません。
「客観的な事実に照らして、思考の偏りを修正する」作業です。
最初はしんどいかもしれませんが、回復期に入ったら少しずつ試してみることをお勧めします。
最後に:焦らず、病気を受け入れる
「休むこと」は、次に進むためのエネルギーチャージであり、治療そのものです。
今は身体が鉛のように重いかもしれませんが、それは、あなた自身がこれまでどれだけ頑張ってきたかの裏返しでもあります。
回復のプロセスは、真っ直ぐな上り坂ではありません。
良い日もあれば、逆戻りしたように感じる日もあるでしょう。
その波をすべて「病気の経過だ」と受け入れ、「今日はここまでできた」という最小限の達成を、自分自身でそっと認めてあげてください。
お読みいただきありがとうございます。
まずは横になって、全身の力を抜いて深く呼吸をしてみてください。
以上、ご参考になれば幸いです。
