関節リウマチ(RA)の治療は、この数十年で劇的に進化しました。
一昔前までは、関節の変形を食い止めることが難しかった病気ですが、今は「寛解(かんかい)」、
つまり病気の症状がほとんどなく、健康な人と同じように生活できる状態を目指せるようになっています。
この進化の鍵となっているのが、様々な種類の「抗リウマチ薬(DMARDs)」の登場です。
種類が増えた分、「結局、どれを使えばいいの?」と迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
今回は、最新のガイドラインに基づいた、抗リウマチ薬の使い分けの考え方を、なるべく分かりやすくご紹介したいと思います!
治療の「大原則」:T2T(Target to Treat)とMTXファースト
リウマチの治療には、まず2つの大きな原則があります。
T2T(Target to Treat):治療目標を定める
治療を始める前に、「寛解」または「低疾患活動性」という目標を定め、そこに向かって集中的に治療を行います。
症状が改善しない場合は、3~6ヶ月以内に薬を見直す、というスピード感も大切です。
MTXファースト:メトトレキサート(MTX)を第一選択に
最新のガイドライン(日本リウマチ学会など)でも、関節リウマチと診断されたら、まず最初に「メトトレキサート(MTX)」の使用を検討することが強く推奨されています。
アンカードラッグ、MTXってどんな薬?
MTXは、リウマチ治療の「アンカードラッグ(錨の薬)」とも呼ばれる最も基本となる薬です。
作用
免疫の異常な働きを抑え、関節の炎症を鎮めます。
特徴
効果が高く、費用対効果にも優れています。
他の薬(特に生物学的製剤やJAK阻害薬)の効果を引き出す「ブースター役」としても非常に重要です。
注意点
腎機能障害、間質性肺炎、肝機能障害などの副作用に注意が必要なため、年齢や持病を考慮して使用量や可否が判断されます。
また、副作用予防のために葉酸製剤の併用が強く推奨されています。
抗リウマチ薬の3つのグループ
MTXが基本となることは分かりましたが、他にもたくさんの薬があります。これらは大きく3つのグループに分けられます。
1. 従来型抗リウマチ薬
略語:csDMARD (conventional synthetic DMARD)
代表的な薬:メトトレキサート(MTX)、サラゾスルファピリジン、ブシラミン、タクロリムスなど
特徴・選択のポイント
治療の土台となる薬。MTXが使えない・効果が不十分な場合に、他のcsDMARDを検討。
2. 生物学的製剤
略語:bDMARD (biologic DMARD)
体表的な薬:TNF阻害薬(アダリムマブ、インフリキシマブなど)、IL-6阻害薬、T細胞選択的共刺激調節薬など
サイトカインや細胞の働きを直接ブロックする注射・点滴薬。高活性の場合の強力な一手。
3. 分子標的合成抗リウマチ薬
略語:tsDMARD (targeted synthetic DMARD)
代表的な薬:JAK阻害薬(トファシチニブ、バリシチニブなど)
特徴・選択のポイント
免疫細胞内の情報伝達をブロックする内服薬。bDMARDと同等の効果が期待される。
治療は「フェーズ」に沿ってステップアップ!
最新のガイドラインでは、患者さんの病状に合わせて薬を段階的に変えていく「フェーズ(段階)治療」が推奨されています。
【フェーズ I】診断時・治療初期:まずはMTX!
目標: 寛解または低疾患活動性(治療開始から3ヶ月で改善、6ヶ月で目標達成を目指す)
第一選択: メトトレキサート(MTX)
MTXが使える状態であれば、内服から始めます。
最近は、内服で吐き気などの副作用が出る方や、より高い効果が期待される場合に皮下注射剤(メトジェクトなど)も選択肢に入ってきました。
MTXが使えない場合
MTXの禁忌(重度の腎機能障害、活動性間質性肺炎など)がある場合は、MTX以外のcsDMARD(サラゾスルファピリジンなど)を使用します。
【フェーズ II】MTXで効果が不十分な場合:強力な薬へステップアップ!
MTXをしっかり使っても、3~6ヶ月で目標を達成できない場合、より強力な「生物学的製剤(bDMARD)」または「JAK阻害薬(tsDMARD)」へのステップアップを検討します。
1. bDMARD(生物学的製剤)+MTX
特徴: 非常に高い効果が期待でき、関節破壊の進行を抑える力も強力です。多くの場合、MTXと併用されます。
使い分けのヒント:
TNF阻害薬(インフリキシマブ、アダリムマブなど)
炎症の原因物質であるTNF-αを狙い撃ちします。
種類が多く、歴史も長いため、まず検討されることが多いグループです。
非TNF阻害薬(IL-6阻害薬、T細胞選択的共刺激調節薬など)
TNF阻害薬が効きにくい場合や、重症心不全などTNF阻害薬が使いにくい持病がある場合に選択されます。
特にIL-6阻害薬は、全身症状や貧血が強い方にも効果が期待されます。
2. JAK阻害薬(tsDMARD)±MTX
特徴: bDMARDと同等の効果が期待できる、新しいタイプの内服薬です。注射・点滴が苦手な方には大きなメリットがあります。
使い分けのヒント:
短期間の治療であれば、MTX単独よりもJAK阻害薬の単独投与が推奨される場合もあります。
内服なので手軽ですが、悪性腫瘍、心血管イベント(心筋梗塞など)、血栓イベント(血液の塊ができる病気)などのリスクを考慮し、
特に高齢者や喫煙者、これらのリスクが高い方には慎重に使用が検討されます。
【重要な最新情報】
近年、bDMARDとJAK阻害薬のどちらを優先するかは、患者さんの希望や持病(併存症)を考慮し、個別化が進んでいます。
安全性と利便性を総合的に判断し、医師とよく相談することが大切です。
【フェーズ III】最初のbDMARD/JAK阻害薬が効かない場合:次の薬へスイッチ!
一つの薬を使っても効果が不十分だったり、副作用が出たりすることもあります。その場合は、薬を切り替えます。
切り替えの原則:
TNF阻害薬で効果不十分だった場合、他のTNF阻害薬よりも、非TNF阻害薬やJAK阻害薬への切り替えが優先されます。
作用機序の異なる薬に変えることで、効果が出る可能性が高まるからです。
非TNF阻害薬またはJAK阻害薬で効果不十分だった場合、他の系統のbDMARD、JAK阻害薬への切り替えを検討します。
リツキシマブ(B細胞をターゲットにしたbDMARD)は、1剤以上のTNF阻害薬が使えない、または効果不十分だった場合に、MTXとの併用が推奨されています。
患者さんの状態に合わせた薬の選択(併存症を考慮)
薬の使い分けで非常に重要なのが、「併存症(持病)」の存在です。リウマチ以外の病気を持っている場合、使える薬が制限されたり、注意が必要になったりします。
中等度以上の腎機能障害
避けるべき・注意が必要な薬
MTXは減量または使用不可。
優先して考慮される薬
MTX以外のcsDMARD、bDMARD(腎排泄でないもの)
重症心不全
避けるべき・注意が必要な薬
TNF阻害薬は投与しないことが推奨されています。
優先して考慮される薬
非TNF阻害薬(IL-6阻害薬、T細胞選択的共刺激調節薬など)
悪性腫瘍の既往/リスク
避けるべき・注意が必要な薬
JAK阻害薬は慎重に検討。
優先して考慮される薬
状況に応じてbDMARD、MTXなど。
高齢者
避けるべき・注意が必要な薬
MTXは安全性に十分配慮して使用。
JAK阻害薬は心血管イベント、血栓リスクを考慮し慎重に。
優先して考慮される薬
安全性の高いcsDMARDや、安全性を考慮したbDMARD
まとめ:治療はオーダーメイド!
抗リウマチ薬の使い分けは、最新のガイドラインという大きな地図をベースに、以下の要素を総合的に判断する「オーダーメイド」の治療です。
疾患活動性: 炎症の強さ、関節破壊の進行リスク(RF/ACPA抗体の有無など)
既存の治療への反応: MTXの有効性
併存症: 他の持病(腎機能、心不全、悪性腫瘍リスクなど)
患者さんの希望: 注射/内服の好み、費用、利便性
リウマチ治療のゴールは、薬を適切に使い分け、病気の勢いを抑え込み、皆さんが笑顔で日常生活を送れるようにすることです。
治療薬について疑問や不安があれば、遠慮なくリウマチ専門医に相談してくださいね。一緒に寛解を目指して頑張りましょう!
 
 

 
  
  
  
  
  
  
  
 