認知症と睡眠の関係は、双方向性(A⇄B)に影響し合うと言われています。
A.睡眠の質や量が認知症の発症や進行に影響する一方で、
B.認知症の方はさまざまな睡眠障害を合併することが多い
ということです。
A.睡眠の質や量が認知症に影響するメカニズムの一つとして、
脳内に蓄積するアミロイドβというたんぱく質の老廃物が関係していると考えられています。
アミロイドβはアルツハイマー型認知症の発症の引き金になるとされており、
睡眠中に脳の清掃システムが働いて排出されます。
睡眠不足や不眠などで睡眠が浅くなると、
この清掃システムがうまく機能せず、アミロイドβが脳にたまってしまうのです。
また、睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグス症候群などの睡眠障害も、
認知症の発症リスクを高めると言われています。
これらの睡眠障害は、睡眠中に気道が塞がったり、足が動いたりすることで、
脳に十分な酸素が届かなくなり、睡眠の質が低下します。
B.認知症の方は、物忘れや判断力の低下などの症状に加えて、
夜眠れなかったり、昼間に眠かったり、昼夜逆転したりすることがよくあります。
これは、睡眠と覚醒のリズムを調整する体内時計が乱れることが原因で、
重度の認知症の方では
わずか1時間程度の短時間でさえ連続して眠ることができなくなるといわれています。
またしっかりと目が覚めきれず「せん妄」というもうろう状態がしばしば出現します。
このような時には不安感から興奮しやすく時に攻撃的になるため、介護の負担が増します。
認知症の方の一部では、夕方から就床の時間帯に徘徊・焦燥・興奮・奇声などの異常行動が目立つ日没症候群という現象がみられます。
これも睡眠・覚醒リズムの異常が関係していると考えられています。
これらの睡眠障害は、認知症の方の生活の質や安全性を低下させるだけでなく、
介護者の負担やストレスも増やすことになります。
認知症と睡眠の関係を改善するためには、
まず睡眠衛生を整えることが重要です。
睡眠衛生とは、睡眠の質を高めるための生活習慣のことで、
以下の8つのポイントがあります。
睡眠の質を高める8つのポイント
①日中に十分な日光を浴びる
②日中に適度な運動をする
③夕方以降は刺激物(コーヒー、紅茶、アルコールなど)を控える
④夜間は静かで暗く快適な寝室にする
⑤寝る前にリラックスできる習慣を持つ
⑥寝る前にスマホやパソコンなどのブルーライトを避ける
⑦睡眠時間を一定にする
⑧昼寝は短く早い時間にする
睡眠衛生を整えてもなお睡眠に関する悩みが残る場合には、
専門医を受診し、適切な診断に基づくアドバイスや治療を受けることが必要です。
残念ながら認知症の方の睡眠障害に有効な薬物療法は知られていません。
安易に睡眠薬やその他の鎮静作用を有する薬を使用すると、
副作用(認知機能低下、転倒・骨折、日中の鎮静作用、翌朝持ち越し等)が
生じる危険性があるため、慎重に検討する必要があります。
睡眠は、認知症の予防や進行の抑制にとって重要な役割を果たしています。
サポートする方の疲弊を防ぐためにも、
睡眠の質や量に気を付けて、健康な脳を保ちましょう。