【風邪に抗生物質】はもう古い!変わりゆく医療の常識と、私たちが知るべきこと

抗菌薬・感染症
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風邪抗生物質】はもう古い!変わりゆく医療の常識と、私たちが知るべきこと

風邪を引いたら、念のため抗生物質をもらっておこう」——かつては当たり前のように行われていた医療行為が、今、大きな転換期を迎えています。

結論から言うと、一般的な「風邪」に抗生物質はほとんど不要であり、

今後は「風邪に抗生物質が処方されない時代」が、より一層確実なものになっていくでしょう。

これは、医療の進歩と、世界的な課題である薬剤耐性(AMR)への対策が背景にあります。

 

風邪の原因は「ウイルス」!抗生物質は効かない

まず、大前提として知っておきたいのが、一般的な風邪の約8〜9割はウイルス感染が原因だということです。

ここで重要なのは、抗生物質(抗菌薬)は「細菌」を殺す薬であり、「ウイルス」には全く効果がないということです。

風邪を治すのは、薬ではなく、あなたの免疫力です。

病院で処方される風邪薬は、熱や咳、鼻水といったつらい症状を和らげるための対症療法薬であり、

風邪の原因であるウイルスを直接やっつける薬ではないのです。

「でも、抗生物質を飲むと治りが早くなった気がする…」と感じたことがあるかもしれません。

それは、抗生物質のおかげではなく、あなたの免疫力がウイルスに打ち勝ち、

本来の風邪の経過として自然に回復したタイミングと、抗生物質を飲んだ時期がたまたま重なった「錯覚」であることが多いのです。

 

本当の脅威:薬剤耐性(AMR)の深刻化

では、なぜ「風邪に抗生物質」という古い常識を変えようと、国を挙げて取り組んでいるのでしょうか?

その最大の理由は、薬剤耐性(Antimicrobial Resistance:AMR)という世界的な問題が深刻化しているからです。

 

薬剤耐性菌とは?

細菌は、抗生物質にさらされ続けると、生き残るために自身の遺伝子を変化させ、

その抗生物質が効かないように進化することがあります。これが薬剤耐性菌です。

抗生物質が効かなくなった薬剤耐性菌が増えると、肺炎敗血症などの重い感染症にかかった時、

既存の薬が効かず、治療が非常に困難になるという恐ろしい事態を招きます。

これは、人類が19世紀に抗生物質を発見して以来築き上げてきた医療の基盤を揺るがしかねない、生命に関わる危機なのです。

 

不要な使用が耐性菌を増やす

そして、この薬剤耐性菌の拡大を加速させているのが、風邪などのウイルス性疾患に対する抗生物質の不要、有害な使用です。

ウイルスが原因の風邪に抗生物質を飲むと、体内にいる善玉菌や無害な細菌までが抗生物質にさらされ、

その中で生き残った細菌が耐性菌となってしまうリスクが高まるのです。

 

変わる日本の医療現場:最新の動き

日本は、抗生物質の不必要な使用が多い国の一つとされてきました。

この現状を打破するため、政府は2016年に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」を策定し、

2023年からは「アクションプラン 2023–2027」として対策をさらに強化しています。

 

1. 診療報酬上の制限

最も具体的な動きの一つが、診療報酬(医療機関が健康保険から受け取る治療費)の審査の厳格化です。

社会保険診療報酬支払基金などは、一般に「風邪」と表現される感冒感冒性胃腸炎などに対して、

内服の抗生物質・合成抗菌薬を処方した場合の算定を、「原則認められない」とする方針を明確に示しました。

(2025年9月付の発表など、最新の情報としてこの方針が示されています。)

これは、医療機関に対して「風邪には抗生物質を出さない」ことを強く促すものであり、

国の政策として、医療現場の行動を根本的に変えようとする強いメッセージです。

不適切な処方をすれば、保医師はより厳密に抗生物質の適応を判断せざるを得なくなります。

 

2. 普及啓発活動の強化

厚生労働省やAMR臨床リファレンスセンターを中心に、国民への啓発活動も活発化しています。

例えば、啓発動画やアニメとのコラボレーション、啓発月間の設定などを通じて、

風邪に抗菌薬は効かない」という正しい知識を広める取り組みが積極的に行われています。

 

3. 医師の判断基準の明確化

もちろん、風邪をこじらせて細菌の二次感染(合併症)を起こしている場合など、抗生物質が必要となるケースは存在します。

例えば、一度熱が下がったのに再び上がった、膿のような鼻水が出始めた、のどの痛みが非常に強い、といった症状が新たに出た場合などです。

医師は、これらの細菌感染の兆候を見極めるために、より詳細な問診や検査(迅速検査キット、CRP検査など)に基づいて判断を下すよう、

ガイドラインに基づいた適正使用が求められています。

 

私たち患者に求められること

「風邪に抗生物質が処方されない時代」は、医療機関の努力だけでなく、患者である私たちの理解と協力があってこそ実現します。

 

1. 医師に「抗生物質をください」と求めない

一番大切なのは、受診時に安易に「抗生物質をください」と要求しないことです。

医師が不要と判断したら、それはあなたの症状がウイルス性であり、抗生物質が必要ない証拠だと受け止めましょう。

 

2. 医師の説明を理解する

医師から「抗生物質は不要です」と説明されたら、なぜ不要なのか、

症状を和らげる薬(解熱鎮痛薬など)をどう使うのかをしっかり確認し、納得して治療を受け入れましょう。

 

3. 薬は最後まで飲み切る(必要な場合)

もし、本当に細菌感染が疑われ、抗生物質が処方された場合は、

医師の指示通り、症状が良くなったと感じても最後まで飲み切ることが極めて重要です。

途中で飲むのをやめてしまうと、生き残った細菌が耐性化する原因となります。

未来の医療を守るため、そして私たち自身が重い感染症にかかった時に薬が効かなくなる事態を防ぐために、

風邪に抗生物質は不要」という新しい常識をしっかりと受け入れ、医療者と協力していくことが、今、私たちに求められています。

この動画では、令和6年度の薬剤耐性(AMR)対策普及啓発イベントの様子が紹介されており、

AMR対策への社会的なコミットメントを理解するのに役立ちます。

以上、ご参考になれば幸いです。

 

 

【参考】令和6年度 薬剤耐性(AMR)対策普及啓発イベント『未来への課題 – YouTube

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