▶吐き気・お腹の不調【プリンペラン、ナウゼリン、ガスモチン】の違いは?

心と体のケア
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吐き気・お腹の不調【プリンペラン、ナウゼリン、ガスモチン】の違いは?

なんだか胃がムカムカする」「食後にすぐお腹が張る」「吐きそうでつらい…

日常のちょっとした不調から、治療に伴う深刻な症状まで、「吐き気」や「消化器の動きの悪さ」は本当につらいですよね。

そんな時、病院でよく処方されるのが、プリンペラン®、ナウゼリン®、ガスモチン®といったお薬です。

名前は聞いたことがあっても、「結局、どれも吐き気止めじゃないの?」と思っている方も多いかもしれません。

しかし、これらのお薬は、実はそれぞれ作用するメカニズムや得意な症状、さらには注意すべき副作用が異なります。

この記事では、最新の情報を交えながら、この3つのお薬の「根本的な違い」を分かりやすく解説していきます。

あなたの症状に合った薬のイメージを掴む手助けになれば幸いです。

 

1. プリンペラン®(一般名:メトクロプラミド): 吐き気と胃の動き、両方に効く二刀流!

まずご紹介するのは、非常にポピュラーなプリンペラン®です。

作用のメカニズム:ドパミンの働きをブロック!

プリンペラン®の主成分であるメトクロプラミドは、主に以下の2つの場所で作用します。

 

脳のCTZ(化学受容器引金帯)

吐き気の「司令塔」とも言えるこの場所で、ドパミンD2受容体をブロックします。

ドパミンは吐き気を引き起こす刺激を伝える物質なので、これを抑えることで強力な制吐作用(吐き気を抑える作用)を発揮します。

消化管(胃や腸)

こちらでもドパミンD2受容体をブロックすることで、

胃の出口(幽門)の緊張をゆるめ、胃から腸への食べ物の流れ(蠕動運動)を促進します。

この作用を消化管運動改善作用と呼びます。

この「脳」「胃腸」の両方に作用する点が、プリンペラン®の最大の強みです。

 

得意な症状:幅広い吐き気と胃もたれ

薬や病気による吐き気・嘔吐

抗がん剤や放射線治療による吐き気(軽度〜中等度)や、胃腸炎に伴う吐き気など、幅広い吐き気・嘔吐に使われます。

機能性ディスペプシア(FD)

胃の動きが悪いために起こる胃もたれ、食欲不振。

逆流性食道炎

胃の内容物の逆流を抑える目的で使われることもあります。

 

最新の注意点:錐体外路症状(EPS)と使用期間

プリンペラン®は、脳に作用する分、錐体外路症状 (EPS) と呼ばれる副作用が出ることがあります。

これは、

手足の震え、筋肉の硬直、じっとしていられない(アカシジア)などのパーキンソン病

のような症状です。

特に小児や高齢者、高用量で長期間使用する場合にリスクが高まるとされています。

このため、近年では、漫然とした長期投与は避けるべきという注意喚起がなされています。

 

2. ナウゼリン®(一般名:ドンペリドン):脳に届きにくい、安心の制吐剤!

次に、ナウゼリン®です。これも非常に有名で、特に小児科でもよく使われるお薬です。

作用のメカニズム:CTZに作用しつつ、中枢への移行は少ない!

ナウゼリンの主成分であるドンペリドンも、基本的にはプリンペランと同じくドパミンD2受容体遮断薬です。

脳のCTZ(化学受容器引金帯)

プリンペラン®と同じく、ここでドパミンをブロックし、強力な制吐作用を発揮します。

消化管(胃や腸)

こちらでも蠕動運動を促す消化管運動改善作用があります。

 

プリンペラン®との決定的な違い!

ナウゼリン®は、血液脳関門 (BBB) をほとんど通過しないという大きな特徴があります。

つまり、

吐き気の司令塔であるCTZには届くけれど、運動機能をつかさどる脳の深い部分には届きにくいのです。

 

得意な症状:小児から成人まで、幅広く使える吐き気止め

小児の吐き気・嘔吐

脳の深い部分への影響が少ないため、小児のウイルス性胃腸炎などによる嘔吐の第一選択薬としてよく使われます(坐薬もあります)。

慢性胃炎や消化不良に伴う吐き気・胃もたれ。

抗パーキンソン病薬の副作用に伴う吐き気(ドパミン作動薬を使っている患者さんにも比較的使いやすい)。

 

最新の注意点:心臓への影響(QT延長)

ナウゼリン®は、脳への移行が少ない分、錐体外路症状のリスクはプリンペラン®より低いとされています。

しかし、近年、

QT延長という心臓の電気的な活動に影響を与える副作用(不整脈のリスク)

が注目されています。

このため、心疾患を持つ方や、QT延長作用を持つ他剤を服用している方には、慎重な投与が求められます。

特に高用量や、静脈内投与(日本では現在行われていません)でリスクが高まります。

 

3. ガスモチン®(一般名:モサプリドクエン酸塩):胃腸の動きを専門に促進!

最後に、作用メカニズムが上記2剤とは大きく異なるガスモチン®です。

作用のメカニズム

セロトニンの力を借りて消化管を動かす!

ガスモチンの主成分であるモサプリドは、セロトニン5-HT4受容体作動薬という全く別の種類のお薬です。

セロトニンは「幸せホルモン」として知られていますが、

実は胃腸の動きをコントロールする重要な物質でもあります。

消化管

モサプリドは、胃や腸の神経細胞に存在する5-HT4受容体を刺激します。

これにより、消化管の収縮が強くなり、食べ物をスムーズに先に送る蠕動運動を強力に促進します。

 

プリンペラン®・ナウゼリン®との決定的な違い!

ガスモチン®は、脳の吐き気中枢(CTZ)に直接作用する制吐作用はほとんどありません。

あくまで胃腸の動きを良くすることで、「動きの悪さが原因の吐き気・胃もたれ」を改善することに特化しています。

 

得意な症状:機能性の消化不良・慢性的な胃もたれ

機能性ディスペプシア(FD)

胃の動き(蠕動)が悪いために起こる慢性的な胃もたれ、早期飽満感(すぐお腹がいっぱいになる)に対して、最も効果的であるとされ、第一選択薬となることが多いです。

逆流性食道炎

胃の内容物を早く腸へ送ることで、逆流を防ぐ目的で使われます。

最新の注意点

安全性と副作用

ガスモチン®は、脳に作用しないため、プリンペラン®のような錐体外路症状の心配はほとんどありません。

また、ナウゼリン®のような心臓への影響(QT延長)のリスクも非常に低いとされています。

主な副作用としては、下痢腹痛といった消化器系の症状が報告されていますが、

全体として安全性の高い薬として認識されています。

 

4. 3剤の違いのまとめ:使い分けのイメージ

プリンペラン® (メトクロプラミド)

  1. ドパミンD2受容体遮断薬
  2. (主な作用点)脳(CTZ) & 消化管……制吐作用 強い
  3. 運動改善作用あり
  4. 得意な症状…幅広い吐き気、急性期の症状
  5. 主な副作用…錐体外路症状(EPS)

ナウゼリン® (ドンペリドン)

  1. ドパミンD2受容体遮断薬
  2. (主な作用点)脳(CTZ) & 消化管 (脳移行性低い)……制吐作用 強い
  3. 運動改善作用あり
  4. 得意な症状…小児の吐き気、脳への影響を避けたい時
  5. 主な副作用…QT延長(心臓への影響)

ガスモチン ®(モサプリド)

  1. セロトニン5-HT4受容体作動薬
  2. (主な作用点)消化管のみ……脳への影響はほとんどない (動きの改善による間接作用
  3. 運動改善作用は最も強力
  4. 得意な症状…慢性的な胃もたれ、機能性ディスペプシア
  5. 主な副作用…比較的少ない (下痢など)

 

医師はこう使い分ける!

「今すぐ吐き気を止めたい!」

プリンペラン® or ナウゼリン®

ただし、脳への影響(EPS)を避けたいならナウゼリン®を選ぶことが多い。

「食後の胃もたれ、お腹の張りが慢性的に続く…」

ガスモチン®

消化管の動きの悪さが根本原因の場合に、最も効果的で安全性が高い。

「吐き気もあるし、胃の動きも悪いみたい…」

プリンペラン® or ナウゼリン® (両方に作用するため)

 

最後に

いかがでしたでしょうか?

そうだったのかと感心された方もいらっしゃると思います。

プリンペラン®、ナウゼリン®、ガスモチン®は、似ているようでいて、

実は作用の根本が全く異なり、それぞれに「得意技」と「注意点」があることがお分かりいただけたかと思います。

これらの情報は、あくまでお薬を理解するためのものであり、

自己判断で服用を決めたり、変更したりすることは避けてください。

あなたの症状や既往歴、体質に最適な治療薬は、必ず医師や薬剤師にご相談の上、処方してもらうようにしてくださいね。

皆さんの消化器系の不調が少しでも早く改善することを願っています!

以上、ご参考になれば幸いです。

 

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