あなたが普段聴いている大好きなポップソングや、思わず口ずさむメロディ。
そのほとんどは、「ダイアトニックスケール(全音階)」という、たった7つの音からなるシンプルなルールに基づいて作られています。
このダイアトニックスケールを理解することは、
音楽という広大な海を航海するための「地図」と「羅針盤」を手に入れるようなものです。
初心者の方でもすぐに「なるほど!」と腑に落ちるように、その仕組みと役割を深掘りしていきましょう。
1. ダイアトニックスケールって何? 7音の秘密
ダイアトニックスケールとは、「1オクターブ(ドから始まるなら次のドまで)を、
特定の規則に従って並べた7つの音の集まり」のことです。
私たちが小学校で習う「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」は、ダイアトニックスケールの最も基本的な形であり、「Cメジャー・スケール(ハ長調)」と呼ばれます。
1.1. 規則:全音と半音の厳密なパターン
なぜ「ドレミファソラシ」が特別なのでしょうか?
それは、音と音の間の「距離(音程)」の並び方に、厳格なルールがあるからです。
この距離を、音楽の世界では「全音」と「半音」で測ります。
全音
半音2つ分の距離(ピアノの鍵盤で、隣の鍵盤を一つ飛ばした音)。
半音
隣り合った鍵盤の音(最も近い距離)。
Cメジャー・スケールは、以下の規則的なパターンで並んでいます。
注目すべきは、ミとファの間、そしてシと次のドの間だけが半音になっている点です。
この「全・全・半・全・全・全・半」という間隔の配列が、この音階に「明るく安定した響き」を与え、聴き手に心地よさを感じさせるのです。
2. キー(調)が変わってもルールは変わらない
もし、あなたが「ド」ではなく「ソ」からこの「全・全・半・全・全・全・半」のパターンで音を並べ始めたらどうなるでしょう?
それは「Gメジャー・スケール(ト長調)」という新しいキー(調)になります。このとき、
しかし、
Gメジャー・スケールも、Cメジャー・スケールと同様に「全・全・半・全・全・全・半」の規則を完璧に守っています。
これがダイアトニックスケールの最も重要なポイントです。
スタートの音(主音)が変わっても、音の間隔のルールは常に一定であり、
3. ダイアトニックコード:音楽の骨格を担う7つの和音
ダイアトニックスケールの真価は、メロディの基盤となるだけでなく、コード(和音)を生み出す点にあります。
メジャースケール上の7つの音を一つ飛ばしで3つ重ねると、そのキーに最も調和する7つの「ダイアトニックコード」が生まれます。
これらのコードこそが、楽曲のコード進行(和音の並び)の骨格となります。
Cメジャー・スケール(ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ)を例に見てみましょう。
①順番 (度数) ②スタート音 ③構成されるコード ④響き(性質)
- ①I ②ド (C) ③Cメジャー ④メジャー
- ①II ②レ (D) ③Dマイナー ④マイナー
- ①III ②ミ (E) ③Eマイナー ④マイナー
- ①IV ②ファ (F) ③Fメジャー ④メジャー
- ①V ②ソ (G) ③Gメジャー ④メジャー
- ①VI ②ラ (A) ③Aマイナー ④マイナー
- ①VII ②シ (B) ③Bディミニッシュ ④特殊
この「メジャー・マイナー・マイナー・メジャー・メジャー・マイナー・特殊」というコードの性質の並びも、
メジャースケールからコードを作るとどのキーでも共通します。
4. コードの「役割」を知る:トニック・サブドミナント・ドミナント
この7つのダイアトニックコードは、曲の中でただ並んでいるわけではありません。
それぞれが明確な「機能(役割)」を持ち、聴き手に「物語の展開」を感じさせます。
これを「コード・ファンクション(コードの機能)」と呼びます。
4.1. トニック(T):安定とホーム
担当コード
I (C), IIIm (Em), VIm (Am)
役割
そのキーの中心であり、「家」のような存在。
最も安定しており、曲を落ち着かせたいときに使います。I→Iのような同じコードでも終止感があります。
4.2. ドミナント(D):緊張と牽引力
担当コード
V (G), VII° (Bdim)
役割
最も不安定なコードで、「家(トニック)に帰りたい!」という強い力(牽引力)を持っています。
サビの直前など、緊張感や盛り上がりを最高潮に高めるために使われます。
4.3. サブドミナント(SD):展開と準備
担当コード
IV (F), IIm (Dm)
役割
トニックとドミナントの間をつなぎ、「展開」や「旅立ちの準備」をする役割です。
穏やかな広がりを感じさせ、聴き手の気分を少し動かしたいときに使われます。
5. ダイアトニックスケールが最新の音楽にもたらすもの
現代のポップスやR&B、K-POPといった最新の音楽でも、ダイアトニックスケールは土台として使われ続けています。
自然な響きの保証
ダイアトニックコードだけでコード進行を作れば、
聴き手が「自然で心地よい」と感じる、調和の取れた響きを簡単に作ることができます。
非ダイアトニックコードの導入
あえてこのダイアトニックの枠組みから外れたコード(非ダイアトニックコード)を使うことで、
曲に「スパイス」や「意外性」を加え、よりドラマチックな展開を生み出します。
しかし、このスパイスも、基本のダイアトニックという「調和」があるからこそ、その効果が際立つのです。
モード(旋法)の応用
Cメジャー・スケールと同じ音を使いながら、スタートの音を変えることで生まれる「モード」という概念は、
ジャズやフュージョンだけでなく、現代ポップスでも独特の雰囲気(例:ドリアンのクールな響き)を出すために活用されています。
まとめ
ダイアトニックスケールは、単なる「ドレミファソラシ」の暗記ではありません。
それは、
- 7つの音の間隔のルール(全・全・半・全・全・全・半)
- その音から生まれる7つのダイアトニックコード
- そして、それらコードが持つT・SD・Dという明確な役割
という、西洋音楽の根幹をなす秩序です。
この仕組みを理解すると、あなたが聴いている曲の「なぜこのメロディは心地よいのか」
「なぜここで盛り上がるのか」という秘密が、論理的に解き明かせるようになります。
まずは、Cメジャー・スケールを鍵盤やギターで弾いてみて、その安定した響きと、
I・IV・Vの3つの主要なコード(トニック、サブドミナント、ドミナント)の響きを体感することから始めてみましょう。
以上、ご参考になれば幸いです。
