今日は、糖尿病治療の分野で近年特に注目を集めている3つの新しいタイプのお薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、そしてGLP-1受容体作動薬について、
そのユニークな作用メカニズムを分かりやすく、最新の知見を交えて解説していきます。
3つのお薬はどれも血糖値を下げる効果がありますが、作用する「場所」や「仕組み」が全く異なります。
この違いを理解することが、それぞれの薬の特性や、心臓・腎臓といった他の臓器への影響を知るカギになります。
1. 腸管の司令塔をサポート!インクレチンを長持ちさせる「DPP-4阻害薬」
DPP-4阻害薬は、インクレチンという体内のホルモンをターゲットにしたお薬です。
インクレチンは、私たちが食事を摂ると腸から分泌され、膵臓に「インスリンを出して!」と指令を出す、血糖コントロールの司令塔のような働きをします。
作用機序:「分解酵素をブロックして、インクレチンを長持ちさせる」
インクレチン(主にGLP-1とGIP)は、血糖値を下げる上で非常に重要なホルモンですが、体の中ではDPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)という分解酵素によって、分泌されてすぐに壊されてしまいます。
DPP-4阻害薬は、このDPP-4の働きを邪魔(阻害)します。
その結果、インクレチンが長く体内に留まり、その効果を発揮し続けることができるようになります。
- インクレチンの分解を阻止し、血中インクレチン濃度が上昇
- 膵臓のベータ細胞に作用し血糖値が高い時だけインスリン分泌を促進
- 膵臓のアルファ細胞に作用し血糖値を上げるグルカゴンの分泌を抑制
- 薬の特性:「血糖依存性」で低血糖になりにくい
DPP-4阻害薬が強力なのは、インスリンの分泌を促す作用が血糖依存的であることです。
つまり、「血糖値が高い時だけ」インスリンを出させるため、単独で使っている限りは、血糖値が必要以上に下がりすぎる低血糖を起こしにくいという大きなメリットがあります。食後の高血糖を改善するのに特に有効です。
2. 腎臓からブドウ糖を排出!水の流れで血糖を下げる「SGLT2阻害薬」
SGLT2阻害薬は、従来の糖尿病治療薬とは全く異なるアプローチで血糖値を下げる、新時代の薬と言えるかもしれません。
この薬が作用するのは、血糖値が高いことによって酷使されてきた腎臓です。
作用機序:「ブドウ糖の“運び屋”を止めて、尿から排出」
健康な人の腎臓は、血液をろ過する際、尿に出てしまいそうなブドウ糖のほとんど(約90%)を血液中に再吸収し、体外へ漏らさないようにしています。
この再吸収の働きを担っているのが、腎臓の尿細管にあるSGLT2(ナトリウム-グルコース共輸送体2)というタンパク質です。
SGLT2阻害薬は、このSGLT2をピンポイントでブロックします。
- 腎臓の近位尿細管にあるSGLT2を阻害
- 血液へのブドウ糖再吸収が抑制される
- ブドウ糖が尿と一緒に体外へ排出される 血糖値が低下
最新情報:心臓と腎臓を守る「多面的効果」
SGLT2阻害薬の真価は、単なる血糖降下作用に留まりません。
最新の臨床試験により、糖尿病があるかどうかに関わらず、心不全や慢性腎臓病(CKD)の進行を抑制する臓器保護作用が確認されています。
心保護作用
体内の余分な水分とナトリウムを排出することで心臓への負担を軽減したり、心筋のエネルギー代謝を改善したりする複数の機序が考えられています。
腎保護作用
腎臓の輸入細動脈を収縮させ、腎臓の糸球体にかかる過剰な圧力を下げる(糸球体内圧の低下)ことが、腎臓を守る主要なメカニズムの一つとされています。
この多面的な効果から、SGLT2阻害薬は現在、心腎疾患の治療薬としても非常に重要な位置づけになっています。
3. 体内のGLP-1を強力に模倣!多彩な作用を持つ「GLP-1受容体作動薬」
GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は、先述のインクレチンの一つであるGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)と似た働きをするよう人工的に作られたお薬です。
DPP-4阻害薬が「GLP-1を長持ちさせる薬」だとすれば、GLP-1RAは「GLP-1そのものの代わりを担い、より強力に、より長く務める薬」と言えます。
作用機序:「GLP-1受容体を直接活性化し、満腹中枢にも作用」
このお薬は、体内のGLP-1が持つ受容体に結合し、本物のGLP-1よりもはるかに長く安定して作用するように設計されています(DPP-4による分解を受けにくくなっています)。
その作用は膵臓だけに留まりません。
- 膵臓のベータ細胞上のGLP-1受容体を直接活性化 血糖値依存的にインスリン分泌を促進、グルカゴン分泌を抑制
- 胃の動きを緩やかに(胃排出遅延)食後の急激な血糖上昇を抑制し、満腹感を長く持続
- 脳の食欲中枢(視床下部)に作用し 食欲を抑制
最新情報:強力な体重減少効果とGIP/GLP-1受容体作動薬
GLP-1RAの最大の注目点は、その強力な体重減少効果です。
食欲抑制と胃排出遅延の作用により、糖尿病治療薬としてだけでなく、肥満症の治療薬としても世界的に注目を集めています。
さらに最新の動向としては、GLP-1だけでなく、もう一つのインクレチンであるGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の受容体にも作用する、GIP/GLP-1受容体作動薬(デュアルアゴニスト)が登場しています(マンジャロ注®)。
GIPの作用も加えることで、より強力な血糖降下作用と体重減少効果が期待されており、今後の糖尿病・肥満治療の主役の一つとして大きな期待が寄せられています。
まとめ
ご自身の病状やライフスタイルに最も合った治療法はどれか、必ず主治医や薬剤師と相談してください。
最新の薬物療法はどんどん進化していますので、希望を持って治療に取り組んでいきましょう。
糖尿病はコントロールできる病気です。近年、体重を適切にキープすることが重要と叫ばれていますね。
以上、ご参考になれば幸いです。