近年、働き方が多様化し、従業員の健康やウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好で、満たされた状態)への意識が高まっています。
しかし、その一方で、「頻繁な欠勤(アブセンティズム)」が企業経営や個人のキャリアに深刻な問題を引き起こす事例も後を絶ちません。
単なる「休むこと」で片付けられない、欠勤が常態化することの具体的な悪影響について、
個人・企業の両面から、最新のデータや事例を交えて深く掘り下げていきましょう。
1. 企業(組織)が被る4つの深刻なダメージ
欠勤が多い従業員を抱えることは、企業にとって無視できない大きなコストとリスクを伴います。
特に、現代の複雑でスピード感のあるビジネス環境においては、その影響はより深刻です。
1-1. 生産性の低下と業績への直接的な悪影響
欠勤の最も直接的な影響は、業務の停滞と生産性の低下です。
業務の遅延・未完了
欠勤した人の業務は、他のメンバーに振り分けられるか、完了が遅れます。
特に専門性の高い業務や、プロジェクトの重要な局面での欠勤は、全体スケジュールに致命的な遅延をもたらします。
代替要員のコスト(時間と費用)
欠勤者の業務をカバーするために、他の従業員が残業したり、本来の業務を中断したりしなければなりません。
これは、
ミス・品質の低下
慣れない業務や、急な引き継ぎによってカバー要員が対応する場合、ミスが発生するリスクが高まり、
提供する製品やサービスの品質低下に直結する可能性があります。
労働経済学の分野では、欠勤率と企業の収益性の間に負の相関関係があることが多くの研究で示されており、
これは単なる精神論ではなく、財務諸表に影響を与える現実的な問題です。
1-2. 職場環境とチームワークの悪化(士気の低下)
頻繁な欠勤は、残されたチームメンバーの心にも大きな影を落とします。
不公平感の増大
特定のメンバーの欠勤が繰り返されると、そのしわ寄せを常に受ける他のメンバーの中に
「なぜ自分たちばかり負担を負うのか」という不公平感や不満が募ります。
これは、職場内の人間関係に軋轢を生み、チームの信頼関係を損ないます。
士気(モラル)の低下
カバー業務が常態化することで、従業員は疲弊し、「自分の仕事に集中できない」というフラストレーションを感じます。
結果として、組織全体のモチベーションやエンゲージメントが低下し、離職率の増加にもつながりかねません。
「隠れ欠勤(プレゼンティズム)」の誘発
欠勤が多い状況が続くと、他の従業員は「休むことへの罪悪感」や「これ以上チームに迷惑をかけたくない」という思いから、
体調が悪くても無理に出勤するプレゼンティズムを誘発する可能性があります。
これは、さらに生産性を低下させ、健康リスクを増大させます。
1-3. 法的・労務管理上のリスクと負担
欠勤が繰り返される状況は、企業に労務管理上の大きなリスクと負担をもたらします。
適切な対応の難しさ
欠勤の理由が「私的な都合」なのか「健康問題」なのかによって、企業が取るべき対応は異なります。
特に、メンタルヘルス不調などが背景にある場合、企業には安全配慮義務に基づき、
適切な医療機関への受診勧奨や休職制度の適用、復職支援などのデリケートで複雑な対応が求められます。
解雇・懲戒処分の難しさ
欠勤を理由に解雇や懲戒処分を行う場合、その正当性・合理性が厳しく問われます。
安易な処分は、不当解雇として訴訟リスクを招き、企業のブランドイメージを大きく損ないます。
欠勤に至るまでの経緯、指導の記録、産業医との連携など、
緻密な証拠と手続きが不可欠となり、労務管理部門の負担が増大します。
健康保険・傷病手当金手続きの煩雑化
欠勤が長期化し、従業員が傷病手当金を申請する場合、企業側は申請書類の作成や確認で事務負担が増加します。
1-4. 人材育成と知識・技術の継承の停滞
欠勤が頻繁な従業員は、安定して業務に携わることができません。
OJT(On-the-Job Training)の機能不全
育成途上の若手社員や新入社員が頻繁に欠勤すると、
上司や教育担当者が計画的な指導を行うことができず、スキルや知識の定着が遅れます。
専門性の成長機会の損失
重要な会議や研修、顧客との接点など、成長の機会を欠勤により逃すことになります。
これは、長期的に見て、その従業員個人の能力開発だけでなく、組織全体の専門性の底上げを妨げます。
ノウハウの属人化とブラックボックス化
重要な業務を担当する人が頻繁に休むと、その人の業務内容やノウハウが他のメンバーに共有されにくくなり、
業務が属人化し、万が一の際のカバーが困難になります。
2. 従業員(個人)が直面する4つの深刻な壁
欠勤が多いという事実は、企業だけでなく、
欠勤をしている本人のキャリアや人生にも深刻なネガティブな影響を及ぼします。
2-1. 評価の低下と昇進・昇給機会の喪失
人事評価制度において、「勤務態度」や「協調性」は重要な評価項目の一つです。
絶対評価への影響
どんなに高いスキルや専門性を持っていても、欠勤が多いことは「安定的なパフォーマンスを発揮できない」と見なされ、
信頼性が著しく損なわれます。結果として、人事評価が低くなり、
昇進・昇給のチャンスを逃すことにつながります。
相対評価への影響
管理職やリーダー職は、「チームを牽引し、安定した成果を出す」ことが期待されます。
欠勤が多い人は、このマネジメント能力を疑問視され、
重要なポジションへの登用から外される可能性が高まります。
賞与への影響
多くの企業では、賞与の算定に際して、欠勤日数や勤務態度が考慮されます。
2-2. 職場内での人間関係の悪化と孤立
欠勤のしわ寄せは、直接的に同僚や上司の負担となるため、
知らず知らずのうちに周囲からの信頼を失い、孤立していくリスクがあります。
信頼関係の崩壊
「また休んだのか」「どうせ理由をつけて休んでいるのだろう」という不信感や疑念が同僚の間に生まれると、
円滑なコミュニケーションや情報共有が難しくなります。
業務上のサポートの減少
孤立することで、業務上の困りごとがあっても、周囲に相談したり、助けを求めたりしづらくなります。
これは、ミスを誘発し、さらにパフォーマンスを低下させる悪循環を生みます。
情報格差の発生
重要な会議や非公式な情報交換の場にいられないことで、
業務に必要な情報や、企業内の動向から取り残されてしまう(情報格差)可能性があります。
2-3. 経済的な損失と生活基盤の不安定化
欠勤は、長期的に見て個人の経済状況に悪影響を及ぼします。
給与の減額
欠勤が有給休暇の範囲を超えた場合、その日の給与は原則として支払われません(ノーワーク・ノーペイの原則)。
これが続くと、毎月の手取り額が不安定になります。
退職金への影響
欠勤期間が長期にわたる場合、勤続年数の算定や、退職金の金額算定基準に影響を及ぼす可能性があります。
キャリアの停滞
欠勤が多いという事実は、転職活動においても不利に働く可能性があります。
企業は採用の際、前職の欠勤状況を間接的に調査することがあり、
「安定して働ける人」を求める採用市場においては大きなマイナス要素となります。
2-4. 自己肯定感の低下とメンタルヘルスの悪化
欠勤が多い状態は、しばしば心身の不調のサインでもあります。
そして、この状況は、さらに本人のメンタルヘルスを悪化させます。
罪悪感とストレス
頻繁に休むことに対して、「会社に迷惑をかけている」「自分がダメな人間だ」
という強い罪悪感や自己嫌悪を感じ、精神的なストレスが増大します。
復帰へのプレッシャー
欠勤中に溜まった業務や、周囲の冷たい視線を想像することで、
根本原因の放置
欠勤の根本原因が、職場の環境(ハラスメント、過重労働)や個人の健康問題(うつ病、自律神経失調症など)にある場合、
適切な診断や治療を受けずに放置されることで、問題がより深刻化し、社会復帰が困難になるリスクがあります。
3. 最新の視点:ウェルビーイング経営と欠勤問題
近年、「ウェルビーイング経営」や「健康経営」の重要性が叫ばれています。
現代の欠勤問題は、単に「怠慢」として捉えるのではなく、
「企業と従業員の間のエンゲージメントの低さ」や「組織的なストレス」のバロメーターとして捉えるべきだという考え方が主流です。
エンゲージメントとの関連
最新の研究では、
これは、企業が従業員を大切にし、適切なサポートを提供することで、欠勤率を改善できる可能性を示唆しています。
AIとデータ分析の活用
欠勤のパターンや理由をデータで分析し、特定の部署や時期に集中する欠勤を早期に発見する「予兆管理」が導入され始めています。
これにより、欠勤が深刻化する前に、ストレスチェックの実施や部署異動、業務負荷の調整といった予防的な介入が可能になっています。
欠勤が多いという状況は、企業がその従業員を切り捨てるのではなく、「なぜこの人は頻繁に休むのか?」という根本原因に向き合い、
企業として働きやすい環境を整備する機会として捉え直すことが、現代の持続可能な経営には不可欠と言えるでしょう。
以上、ご参考になれば幸いです。
参考資料
厚生労働省 – 職場における心の健康づくり(資料、指針など)
概要: メンタルヘルス対策の基本指針や、事業者が講ずべき措置などがまとめられています。欠勤がメンタルヘルスに起因する場合の対応の参考になります。
経済産業省 – 健康経営優良法人認定制度
概要: 従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に実施している企業を評価・認定する制度。この分野における企業の取り組み事例や、欠勤率改善への意識の高まりが確認できます。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT) – 調査研究アーカイブ
概要: 労働時間、欠勤、生産性などに関する詳細な調査研究レポートが公開されており、学術的・具体的なデータを確認できます。

