世界中で愛用されている無料の楽譜作成ソフト、「MuseScore」が大きな進化を遂げたことをご存知でしょうか?
これまでは単に「世界中で愛用されている無料の楽譜作成ソフト、「MuseScore 4」と呼ばれていましたが、
最新のアップデートにより、デスクトップアプリ版の正式名称は「MuseScore Studio」となりました。
これは、楽譜共有サイト(musescore.com)と明確に区別し、「プロフェッショナルな制作スタジオ」としての機能を強化していくという決意の表れでもあります。
「無料とは思えないほど音が良い」「画面がスタイリッシュになった」と話題ですが、
機能が増えたぶん、どこから手をつければいいか迷ってしまう方も多いはずです。
この記事では、初めての方でも迷わずに一曲書き上げられるよう、
MuseScore Studioの導入から基本操作、そして書き出しまでを、最新の仕様に基づいて徹底解説します。
1. 導入編:Muse Hubがすべての入り口
以前のバージョン(MuseScore 3)とは異なり、最新のMuseScore Studioを最大限に活用するには、
「Muse Hub(ミューズ・ハブ)」という管理ツールのインストールが推奨されています。
なぜこれが必要かというと、今回の目玉機能である超高音質音源「Muse Sounds」を管理するためです。
従来のMIDI音源のような機械的な音ではなく、まるでプロの奏者がそこで演奏しているかのようなリアルな音源
(オーケストラ、合唱、ピアノなど)が、なんと無料で手に入ります。
インストールの手順
公式サイトから「Muse Hub」をダウンロードし、インストールします。
Muse Hubを起動し、「MuseScore Studio」のタブからソフト本体をインストールします。
同じ画面の「Sounds」タブから、必要な音源(Muse Sounds)をダウンロードします。
ファイルサイズが大きいので、最初は「Muse Choir」や「Muse Keys」など興味のあるものだけでも構いませんが、
すべて入れると表現の幅が劇的に広がります。
2. スタートセンター:新しい楽譜を作る
ソフトを起動すると、「ホーム」タブ(旧スタートセンター)が開きます。
ここは、最近使ったファイルの履歴や、新しいプロジェクトを始めるための玄関口です。
新規スコアの作成ウィザード
「新しいスコア」をクリックすると、セットアップウィザードが始まります。以下の順序で設定していきましょう。
楽器の選択
「楽器」タブで、使用したい楽器を選びます。
「追加」ボタン(または矢印)で右側のリストに移動させます。
並び順はドラッグ&ドロップで変更できますが、「オーケストラ」などのプリセットを選べば自動的に一般的な並び順にしてくれます。
調号と拍子
曲のキー(調)と拍子記号、テンポ、弱起(アウフタクト)の設定を行います。
これらは後からでも簡単に変更できるので、決まっていなければデフォルトのままでも大丈夫です。
設定を終えて「完了」を押すと、真っ白な五線譜が画面に現れます。
3. 画面構成:3つのエリアを理解する
MuseScore Studioの画面は、非常に整理されています。
主に3つのエリアを覚えておけば迷子になりません。
左側:パレット(道具箱)
ここには、音符以外のあらゆる記号が入っています。
ト音記号、強弱記号(fやp)、スラー、反復記号、テンポ表記など、
楽譜に必要な「部品」はすべてここからドラッグ&ドロップ、または選択してクリックで配置します。
中央:スコアビュー(作業机)
楽譜そのものです。ここで音符を入力したり、レイアウトを調整したりします。
左側または右側:プロパティパネル(詳細設定)
MuseScore 3での「インスペクタ」にあたる部分です。
ここが非常に重要です。
楽譜上の何か(音符やテキスト)をクリックすると、その「属性」がここに表示され、細かく調整できます。
例えば、音符を選択すれば「符尾の向き」や「ベロシティ(音の強さ)」を変えられますし、
テキストを選択すればフォントやサイズを変更できます。
表示されていない場合は、画面端の「プロパティ」タブをクリックして開いておきましょう。
4. 音符入力:マウスより「キーボード」が圧倒的に早い
いよいよ音符を入力していきます。
マウスで一つ一つ置いていくこともできますが、慣れるとキーボードショートカットの方が10倍速く入力できます。
この基本操作だけは、ぜひ最初に覚えてください。
ステップ入力の黄金ルール
入力モードに入るには、キーボードの「N」キーを押します(Note入力のNと覚えましょう)。
カーソルが青くなり、入力待機状態になります。
基本の流れは「長さを決める」→「音の高さを決める」の繰り返しです。
1. 音の長さを数字キーで選ぶ
テンキーまたはキーボード上部の数字キーを使います。
- 5:四分音符(基準)
- 4:八分音符
- 6:二分音符
- 3:十六分音符
- 7:全音符
- .(ピリオド):付点(例:5の後にピリオドで付点四分音符)
2. 音の高さをアルファベットで入力する
音名(ドレミ)は、英語表記のキーに対応しています。
- C:ド
- D:レ
- E:ミ
- F:ファ
- G:ソ
- A:ラ
- B:シ
例えば、「四分音符のド」を入力したい場合は、「5」を押してから「C」を押します。
「八分音符のソ」なら、「4」を押してから「G」です。
その他の必須操作
- 0(ゼロ):休符を入力(選択中の音価の休符が入ります)。
- Ctrl + ↑ / ↓:選択した音符を1オクターブ上下させる。
- ↑ / ↓:音高を半音ずつ修正する。
- Backspace:直前の入力を取り消す(戻る)。
- Esc:入力モード(Nモード)を終了する。
和音を入れたい場合は、音符を入力したあとにShift + 音名キーを押すと、その上に音が積み重なります。
5. 記号の追加と編集:表現力を高める
音符が並んだら、音楽的な表情をつけていきます。
ここで活躍するのが、左側の「パレット」です。
基本的な記号の付け方
記号を付けたい音符を選択(青く光った状態)にしてから、パレット内の記号をクリックするのが基本です。
ドラッグ&ドロップでも可能ですが、選択→クリックの方が誤配置が少なくおすすめです。
アーティキュレーション(スタッカート、テヌートなど)
音符を選んで、パレットの「アーティキュレーション」から選択します。
強弱記号(ダイナミクス)
音符を選んで、パレットの「強弱記号」から「p」や「f」を選びます。
スラーとタイ
スラー(なめらかに): 始点となる音符を選び、キーボードの「S」を押します。
終点は自動で次の音になりますが、Shift + →キーで範囲を広げられます。
タイ(音をつなぐ): 音符を選び、キーボードの「+(プラス)」またはツールバーのタイボタンを押します。
同じ高さの次の音符と繋がります。
歌詞の入力
音符を選んでCtrl + Lを押すと、音符の下にカーソルが出ます。
文字を入力してスペースキーかハイフンを押すと、次の音符へ移動します。
6. レイアウト調整:美しく仕上げるために
入力が一通り終わったら、楽譜の見た目を整えます。
MuseScore Studioは自動レイアウト機能が優秀ですが、微調整が必要な場合もあります。
小節割りの変更
「この小節で改行したい」という場合は、その小節の縦線(小節線)を選択し、Enterキーを押します。
これで強制的に改行されます。逆に戻したい場合は、改行マークを選択してDeleteキーを押します。
スペーサーの活用
「ト音記号の段とヘ音記号の段の間隔をもう少し広げたい」といった場合は、
パレットの「レイアウト」にある「スペーサー」を使います。
上矢印や下矢印のアイコンを小節の中にドラッグし、
現れた青い矢印をマウスで引っ張ることで、段の間隔を自由に調整できます。
パーツ(パート譜)の作成
スコア(総譜)から、各楽器ごとのパート譜を作るのは一瞬です。
画面上部のツールバーにある「パート」ボタンをクリックし、
「すべて開く」を選ぶだけで、全楽器分のパート譜タブが生成されます。
パート譜側でレイアウトを調整しても、音符の内容はスコアと連動しているので安心です。
7. 再生とミキサー:プロ級のサウンドを確認
MuseScore Studioの醍醐味、Muse Soundsによる再生です。
スペースキーを押すだけで再生・停止ができます。
ミキサーでの調整
画面上部の「ミキサー」ボタン、またはF10キーでミキサーパネルを開きます。
ここでは各楽器の音量バランスやパン(左右の定位)を調整できるだけでなく、
リバーブ(残響)の深さも設定できます。
さらに、VSTプラグイン(外部の音源ソフト)を読み込んで使うことも、このミキサー画面から行います。
Muse Soundsを使用している場合、単なる音量だけでなく、強弱記号に合わせた音色の変化も非常にリアルに再現されます。
再生しながら、意図した通りの表現になっているか確認しましょう。
8. 保存と書き出し:世界へ届けよう
完成した楽譜は、必ず保存しましょう。
- 保存(.mscz形式)
- 「ファイル」→「保存」で行います。
- コンピューターに保存: 自分のPC内にファイルを保存します。
- クラウドに保存: MuseScore.comのアカウントに保存します。
これを選ぶと、出先でもWebブラウザから楽譜を確認したり、コミュニティで公開したりできます。
エクスポート(書き出し)
楽譜を人に渡したり、音源としてスマホに入れたりする場合は「エクスポート」機能を使います。
「ファイル」→「エクスポート」を選択します。
- PDF: 印刷用の楽譜データとして一般的です。
- MP3 / WAV: 作成した音楽を音声ファイルとして書き出します。Muse Soundsの高音質な演奏をそのままファイルにできます。
- MusicXML: 他の楽譜作成ソフト(FinaleやDoricoなど)とデータをやり取りする際に使います。
- MIDI: DAW(音楽制作ソフト)で編集するためのデータとして書き出します。
まとめ:まずは一曲、コピーしてみよう
MuseScore Studioは非常に多機能ですが、すべての機能を最初から覚える必要はありません。
「Nキーで入力モード」「数字で長さ、文字で音程」という基本のリズムさえ掴めば、
パズルを組み立てるように楽しく作業ができるようになります。
まずは、手元にある簡単な楽譜や、好きな曲のメロディを8小節だけでもコピーしてみてください。
「自分の打ち込んだ音が、プロのような音質で再生される」という感動は、創作意欲を大きく刺激してくれるはずです。
さあ、あなたのデスクトップを、世界最高の音楽スタジオに変えましょう!
最後に
この楽譜作成ソフトは、無料とは思えない高機能で立派な楽譜が作れます。
最近は入力が少し慣れてきて、チェロのアドリブ用サンプル楽譜なんかも作っていますね。
楽器を演奏されている方や、歌が好きな方なども、使って楽しく作曲家気分になれます。
未経験の方は、是非トライしてみて下さい。
以上、ご参考になれば幸いです。
