▶片頭痛治療薬【ナルティークOD錠】(一般名:リメゲパント)について教えて!

心と体のケア
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片頭痛治療薬【ナルティークOD錠】(一般名:リメゲパント)について教えて!

長年、片頭痛に悩まされている皆さん、こんにちは。

「頭痛が来そうだな…」と感じた瞬間のあの絶望感、そして生活のすべてがストップしてしまう辛さは、本当に言葉では言い表せないものがありますよね。

これまでの片頭痛治療といえば、発作が起きた時に飲む「トリプタン製剤」や、予防のための「注射薬」などが主流でしたが、

トリプタンが効きにくい」「副作用の胸の苦しさが苦手」「注射は痛いから嫌だ

といった悩みを抱えている方も多かったのではないでしょうか。

そんな「片頭痛治療の悩み」を一挙に解決するかもしれない画期的な新薬が、日本でも登場し、大きな注目を集めています。

それが、ファイザー社から発売された「ナルティークOD錠(一般名:リメゲパント)」です。

この薬、何がそんなにすごいのかと言うと、

「発作が起きた時の治療」と「発作を起こさないための予防」の両方に使える、日本初の飲み薬だという点です。

今回は、この期待の新星「ナルティークOD錠」について、

その特徴や仕組み、飲み方、そして気になる副作用まで、

最新の知見を交えながら、専門的な用語もできるだけ噛み砕いて解説していきます。

片頭痛難民の皆さんにとって希望の光となる情報が詰まっていますので、ぜひ最後までお付き合いください。

 

1. ナルティークOD錠とは?:これまでの薬と何が違うの?

まず、この薬の最大の特徴を一言で言うなら、「1粒で2役をこなす二刀流」であるということです。

これまでの片頭痛治療は、大きく分けて二つのアプローチがありました。

一つは、頭痛が起きた瞬間に火消しをする「急性期治療薬」(トリプタン製剤など)

もう一つは、そもそも火事を起こさないようにする「予防薬」(CGRP関連抗体薬の注射や、てんかん薬などの流用)

患者さんは、痛い時に飲む薬を持ち歩きつつ、

予防のために毎日別の薬を飲んだり、月に一度病院で注射を打ったりする必要がありました。

しかし、ナルティークはこの常識を覆しました。

世界初のメカニズム「ゲパンツ

ナルティークは、「CGRP受容体拮抗薬(ゲパンツ系)」と呼ばれる新しいグループに属するお薬です。

片頭痛のメカニズムとして、現在最も有力なのが「CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)」という物質の関与です。

脳の血管の周りでこのCGRPという物質が放出されると、血管が広がり、炎症が起き、あのズキズキとした激しい痛みが引き起こされる

と考えられています。

ナルティークは、この「痛みの原因物質であるCGRP」が、神経にある「受容体(受け皿)」にくっつくのをブロックします。

鍵穴に別の鍵を差し込んで塞いでしまうようなイメージです。

これにより、炎症や痛みの伝達をシャットアウトするのです。

 

トリプタン製剤との決定的な違い

これまで特効薬として使われてきた

「トリプタン製剤(イミグラン、マクサルトなど)」は、血管を「収縮」させることで痛みを止める薬でした。

そのため、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの既往がある方は血管が縮むと危険なため使用できず

副作用として「胸が締め付けられる感じ」が出ることもありました。

一方、ナルティークは「血管を収縮させない」という大きな特徴があります。

あくまで痛みの信号をブロックするだけなので、

心臓や脳血管への影響が少なく、これまでトリプタンを使えなかった方でも服用できる可能性が高いのです。

 

2. 画期的な「二刀流」の使い方:用法・用量

ナルティークOD錠の最もユニークな点は、「どう使うかによって役割が変わる」という点です。

医師の処方に従って、以下の2通りの使い方ができます。

 

【使い方その1】急性期治療薬として(痛い時に飲む)

これは従来のアマージやレルパックスなどのトリプタン製剤と同じ使い方です。

「あ、頭痛が来たな」と思ったら服用します。

用法

片頭痛の発作が起きた時に、1回1錠(75mg)を服用します。

1日の上限

1日1回までです。

もし薬が効いて痛みが治まったあと、またぶり返したとしても、その日はもう追加で飲むことはできません。

ここがトリプタンと違う点です。トリプタンは時間を空ければ追加投与できましたが、ナルティークは1日1回厳守です。

臨床試験のデータでは、服用から2時間後には多くの人で痛みが消失、または軽減したという結果が出ています。

特に、トリプタン特有の副作用が苦手な方や、

トリプタンを飲むタイミングを逃して効きが悪くなってしまった場合(アロディニア*が出ている状態など)でも効果が期待できるとされています。

*アロディニア(異痛症)とは、通常は痛みを感じないような軽い刺激(衣類の摩擦、そっと触れる、冷たい空気など)が、痛みとして認識されてしまう感覚異常です。

 

【使い方その2】発作抑制薬として(予防のために飲む)

こちらがナルティークの真骨頂です。

頻繁に片頭痛が起きるため日常生活に支障が出ている方に対して、予防薬として処方されるケースです。

用法

1回1錠(75mg)を、48時間に1回(2日に1回)服用します。

ポイント

毎日飲むのではなく、「1日おき」に飲むのが特徴です。
例えば、「月・水・金・日…」といったサイクルになります。

これまで、CGRPをターゲットにした強力な予防薬といえば、エムガルティアジョビアイモビーグといった「注射薬」しかありませんでした。

効果は絶大ですが、「注射が痛い」「通院して打つのが手間」「自己注射が怖い」「費用が高い」というハードルがありました。

ナルティークは飲み薬でありながら、これら注射薬に近い予防効果(発作回数の減少)が期待できるのです。

「注射は嫌だけど、しっかり予防したい」という方には、まさに待ち望んでいた選択肢と言えるでしょう。

 

3. 飲みやすさへの配慮:「OD錠」とは?

商品名についている「OD」は、「Orally Disintegrating(口腔内崩壊)」の略です。

これは、「水なしでも口の中でサッと溶ける」タイプの錠剤であることを意味しています。

片頭痛の発作中は、強い吐き気を伴うことが多く、水を飲むことさえ辛い場合があります。

また、会議中や移動中など、すぐに水を用意できない場面で発作が起きることもあります。

ナルティークOD錠は、舌の上に乗せれば唾液だけで崩壊するので、場所を選ばずにサッと服用できます。

ほのかなミント味で飲みやすく設計されています。(もちろん、水で飲んでも構いません)。

 

4. 気になる副作用と注意点

どんなに優れた薬にも副作用や注意点はあります。正しく怖がるために、知っておくべき情報をまとめました。

 

主な副作用

臨床試験で報告されている主な副作用は以下の通りです。

悪心(吐き気)

最も多く報告されていますが、その頻度はトリプタン製剤と比べても同程度か、やや少ないと言われています。

眠気、めまい

服用後に眠気を感じる場合があります。初めて飲む時は、車の運転などは控えて様子を見たほうが安心です。

過敏症

まれに発疹や蕁麻疹などのアレルギー反応が出ることがあります。

全体的に見て、重篤な副作用の頻度は低いとされていますが、体調に異変を感じたらすぐに医師に相談してください。

 

服用できない人・注意が必要な人

本剤の成分でアレルギーを起こしたことがある人

服用できません。

重度の肝機能障害がある人

薬の分解が遅れる可能性があるため、慎重な判断が必要です。

重度の腎機能障害がある人

こちらも慎重投与となります。

妊婦または妊娠している可能性のある女性

治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与されます。

動物実験で胎児への影響が報告されているため、基本的には避ける傾向にあります。

授乳中の女性

薬が母乳に移行することがわかっています。服用中は授乳を避けることが推奨されます。

 

飲み合わせ(相互作用)

ナルティークは、肝臓の「CYP3A4」という酵素や、「P-gp」というトランスポーターによって代謝・排泄されます。

そのため、これらに影響を与える他の薬との飲み合わせに注意が必要です。

併用注意薬の例

一部の抗真菌薬(イトラコナゾールなど)、一部の抗生物質(クラリスロマイシンなど)、抗HIV薬など。

これらと一緒に飲むと、ナルティークの血中濃度が上がりすぎたり、逆に下がりすぎたりする恐れがあります。

普段飲んでいる薬がある場合は、必ずお薬手帳を医師・薬剤師に見せてください。

 

5. ナルティークOD錠は誰におすすめ?

これまでの情報を踏まえると、ナルティークは以下のようなタイプの方に特におすすめと言えます。

トリプタン製剤が体に合わない人

トリプタンを飲むと胸が苦しくなる」「喉が詰まる感じがする」という方。

トリプタン製剤の効果が薄い人

これまでスマトリプタンなどを飲んでも痛みが引ききらなかった方。

心血管系のリスクがある人

高血圧や狭心症の既往があり、血管収縮作用のある薬を避けたい方。

予防治療をしたいが、注射は避けたい人

飲み薬でしっかりとした予防効果を得たい方。

薬の飲みすぎ(乱用頭痛)が心配な人

ナルティークは、従来の鎮痛薬に比べて「薬剤の使用過多による頭痛(MOH)」を起こしにくいと考えられています。

 

6. 最新の処方事情(2024-2025年時点の視点)

ナルティークOD錠は、日本では比較的新しい薬です。

新薬には通常、発売から1年間は「処方日数制限(一度に14日分までしか出せない)」というルールが適用されます。

発売時期によっては、まだこの制限期間中の可能性があり、

その場合は「予防薬として2日に1回飲む」ために長期間分の薬をもらおうとしても、頻繁に通院が必要になるケースがあります。

また、薬価(薬の値段)についても触れておく必要があります。

ナルティークは非常に高性能な新薬であるため、何十年も前からあるジェネリックの痛み止めや、古いトリプタン製剤に比べると、薬価は高めに設定されています。

お守り代わりに1錠だけ持っておく」ならそれほど負担になりませんが、

予防薬として毎月15錠(2日に1回ペース)服用する場合、3割負担でもそれなりの金額になります。

しかし、片頭痛によって仕事を休んだり、家事が手につかなくなったりする「損失」を考えると、

コストをかける価値は十分にあると考える患者さんも増えています。

また、高額療養費制度などが適用になるケースもあるかもしれませんので、

費用面については事前に医師や薬剤師とよく相談することをお勧めします。

 

まとめ:片頭痛治療の新しい選択肢

ナルティークOD錠は、単なる新しい痛み止めではありません。

痛くなってから治す」だけでなく「痛くならない日常を作る」こともできる、まさに片頭痛治療のパラダイムシフトを象徴するお薬です。

もちろん、すべての人に100%効く魔法の薬ではありません。

人によっては「やっぱりトリプタンの方がシャキッと効く」という場合もあるでしょう。

しかし、これまで「今の薬が効かないから耐えるしかない」「副作用が怖いから薬を飲みたくない」と諦めていた方にとっては、

強力な「次の一手」となることは間違いありません。

片頭痛は、目に見えない病気ですが、その辛さはご本人にしか分かりません。

だからこそ、我慢せずに最新の医療の力を借りてください。

もし、今の治療に満足していないなら、次回の診察で「新しいナルティークという薬について聞きたいのですが」と、主治医に相談してみてはいかがでしょうか?

その一言が、あなたの頭痛のない快適な明日への第一歩になるかもしれません。

どうか、あなたにぴったりの治療法が見つかりますように。

以上、ご参考になれば幸いです。

 

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