前回、安価なピックアップを「化けさせる」にはプリアンプが必須とお話ししましたが、
その中でも抜群のコストパフォーマンスを誇るのが、BEHRINGER(ベリンガー)のV-TONE ACOUSTIC ADI21です。
実売価格が驚きの5,000円〜8,000円程度でありながら、
今回は、このADI21をチェロで使いこなすための具体的な接続方法、基本操作、ハウリング対策、そして応用テクニックまで詳しく解説します。
ADI21とチェロピックアップの「つなぎ方」
BEHRINGER ADI21は、チェロのピックアップからの信号をPAシステム(ミキサー)に送るまでの「橋渡し役」として機能します。
1. 基本的な接続順序
チェロ用のピエゾピックアップ(例:Fishman C-100など)を使う場合、基本的な接続順序は以下の通りです。
チェロピックアップ
- → ADI21のINPUTジャック
- → ADI21のOUTPUTジャック(またはXLR出力)
- → PAミキサー、またはアンプ
2. OUTPUTの使い分け(ライブでの重要ポイント)
ADI21には、ライブで非常に重要な2種類の出力(OUTPUT)があります。
① UNBALANCED OUT (1/4インチ標準フォンジャック)
用途
自宅練習用のアンプや、ステージ上のモニターアンプに接続する場合。
または、エフェクターなどをADI21の後ろにつなぐ場合に使用します。
② BALANCED DI OUT (XLRキャノンジャック)
用途
ライブハウスやホールのPAミキサーに直接信号を送る場合に使用します。
このXLR出力は、信号がノイズに強く、PAエンジニアが最も扱いやすい形式です。ライブでは原則こちらを使いましょう。
3. 電源に関する注意点
ADI21は、9V電池(006P型)またはACアダプター(別売)で駆動します。
電池駆動
ファンタム電源
ADI21は、XLRケーブルでPAミキサーと接続されている場合、PA側から送られるファンタム電源(+48V)では駆動しません(電源が入らない)。
必ず電池かACアダプターで駆動させる必要があります。
ADI21の基本操作とチェロのための設定
ADI21のツマミは多そうに見えますが、チェロで使う際に重要なのは以下の機能です。
1. LEVELとGAIN
GAIN
ピックアップからの入力信号の音量を調整します。
安価なピエゾピックアップは出力が低いことが多いので、まずこのGAINを調整し、
LEDがたまに点灯する程度(赤く点灯しっぱなしはNG)まで上げます。
LEVEL
全体の出力音量を調整します。
こちらはPAエンジニアと相談しながら調整することが多いですが、
基本的にはPAミキサー側でコントロールできるため、少し余裕を持たせたレベルにしておきます。
2. V-TONEモデリング機能
ADI21の核となるのが、この「V-TONE」モデリングです。
これは、高級なアコースティックアンプのサウンド特性をシミュレートする機能です。
MODEスイッチ
“TUBE”(真空管)モデリングと”FLAT”(フラット)を切り替えます。
フットスイッチ
このフットスイッチで、V-TONEモデリングとEQをON/OFFできます。
演奏中は常にONの状態にして、プリアンプの恩恵を受け続けましょう。
3. 3バンドEQ(イコライザー)の活用
安価なピエゾサウンドを補正する上で、このEQが最も重要です。
①ツマミ ②周波数帯域 ③チェロでの役割 ④基本設定(目安)
①BASS (低音) ②80Hz前後 ③胴鳴り、音の太さ、温かみを加える。 ④12時方向〜1時方向へブースト
①MID (中音) ②500Hz前後 ③ピエゾ特有の硬さや、不快な摩擦音の出やすい帯域。④11時方向へカット
①TREBLE (高音) ②8kHz前後 ③弦を弾く音の輪郭、抜け感を調整。 ④12時方向〜11時方向へわずかにカット
【音作りの手順】
まず、全てのEQツマミを12時方向(フラット)にします。
MIDを11時方向に少しカットして、ピエゾ特有の「カチカチ」した硬さを和らげます。
BASSを1時方向にブーストして、チェロのC線やG線が持つべき「太さ」を補います。
TREBLEは、好みで調整しますが、
のがおすすめです。
ハウリングを防止するための設定と工夫
安価なピックアップとプリアンプの組み合わせは、音を大きく出すとハウリングしやすい傾向があります。
ADI21の機能と外部の工夫で、これを最小限に抑えましょう。
1. ADI21のPADスイッチ活用
PADスイッチ
入力信号を-20dBカットする機能です。
使い方
PADをONにします。
これにより、GAINの調整幅が広がり、音の歪みやハウリングを抑えられる場合があります。
2. GND LIFTスイッチの活用
GND LIFT
接地(グランド)を切断する機能です。
使い方
ハウリング対策というよりは、ノイズ対策として非常に有効です。
3. 外部の工夫(演奏者側での対策)
ミッドレンジのEQカット
ハウリングの多くは中音域で発生します。
前述の通り、MIDを積極的にカットすることで、ハウリングを大きく軽減できます。
モニタースピーカーの配置
演奏しているチェロのF字孔やピックアップに、モニタースピーカーからの音が直接当たらないように配置を工夫してもらいましょう。
ADI21の応用テクニック
ADI21は非常にシンプルですが、工夫次第でさらに活用できます。
1. エフェクターの活用
ADI21のXLR出力(PA行き)とは別に、UNBALANCED OUTから他のエフェクター(例:リバーブやディレイ)に接続し、
音の空間的な広がりを加えることができます。
リバーブを軽くかけるだけで、ピエゾのドライな音に「ホールで演奏しているような空気感」を演出できます。
2. チューナー/フットスイッチとしての活用
ADI21にはミュート機能付きのチューナーは搭載されていませんが、
フットスイッチをバイパス状態(LED消灯)にすることで、ADI21のエフェクト(EQ/モデリング)を無効にできます。
これは、曲間の短い休憩で意図的に音をオフにするなどの、擬似的なミュートスイッチとしても利用可能です。
(ただし、完全に信号が途切れるわけではありません)
まとめ:ADI21は最強のコストパフォーマー
BEHRINGER ADI21は、価格からは信じられないほど多機能で、
安価なピックアップとADI21を組み合わせ、そしてEQ設定を工夫することで、
ライブ演奏に必要な実用性と、チェロらしい深みを両立させることが可能です。
以上、ご参考になれば幸いです。
