心不全におけるファンタスティック4とは、β遮断薬、ARNI、MRA、SGLT2阻害薬の4種類です。
これらの薬剤は、心臓の負担を軽減し、心不全の進行を抑制する効果があります。
4種類は特に、HFrEF(左室駆出率「LVEF」の低下した心不全)の治療に有効で、予後を改善する薬物とされます。
LVEFとは、左室駆出率(left ventricular ejection fraction)を意味していて、心エコー検査などで測定されます。
1回の収縮で左室拡張末期容積の何%が駆出されるかを表しており、心臓(左心室)の収縮能の体表的な指標です。 正常値は55〜80%です。
心臓から全身に血液を送り出すのに重要な左心室の収縮機能の指標になります。
HFrEFでは虚血性心疾患や拡張型心筋症などの心筋疾患が多いことが知られています。
また厚生労働省は、医療機関側が特に薬局薬剤師にフォローアップしてほしい疾患として
心不全、認知症、糖尿病に対するニーズが高かったことを公表しています。(2023年11月8日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会にて)
4種類それぞれの特徴と効果をまとめます。
①β遮断薬:βブロッカー
ビソプロロール、カルベジロール、メトプロロール
交感神経系を抑制し、心拍数や血圧を下げることで心臓の負担を軽減する
心不全の増悪や死亡リスクを低下させる
②SGLT2阻害薬:(sodium glucose cotransporter 2 : NaとGluを運ぶ蛋白)
ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ®)
エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス®)
カナグリフロジン(商品名:カナグル®)他
腎臓でのブドウ糖の再吸収を阻害する
利尿効果や肥満改善によって心臓の負担を軽減する
糖尿病の有無に関わらず、心不全の増悪や心血管死を減らす
2020年に発表されたEMPEROR-Reduced試験では、SGLT2阻害薬のエンパグリフロジンを投与したHFrEF患者は、プラセボ群と比較して、心不全入院や心血管死のリスクが25%低下したと報告されています
③ARNI:アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬
サクビトリル・バルサルタン(商品名:エンレスト®)
ネプリライシンを阻害して心保護因子であるナトリウム利尿ペプチド系を強める
アンジオテンシン受容体を拮抗して心臓刺激因子であるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を抑制する
ACE阻害薬やARBよりも心不全の増悪や死亡リスクを低下させる
2021年に発表されたGUIDE-HF試験では、ARNIのサクビトリルバルサルタンを投与したHFrEF患者は、ACE阻害薬のエナラプリル群と比較して、NT-proBNPの低下率が13.8%高かったと報告されています
④MRA:ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
スピロノラクトン、エプレレノン
アルドステロン受容体を拮抗して、水分やナトリウムの過剰な再吸収を防ぐ
心臓のリモデリングを抑制し、心不全の増悪や死亡リスクを低下させる
これらの薬物は、それぞれ異なる作用機序を持ち、相乗的な効果を発揮します。
投与の順番については、ガイドラインでは明確に示されていませんが、
一般的にはβ遮断薬とMRAを基本とし、
効果が不十分な場合にはACE阻害薬やARBをARNIに切り替え、
SGLT2阻害薬を追加することが推奨されています。
ただし、患者さんの状態や副作用の有無によっては、
投与の順番や量を調整する必要があります。
欧米では、4剤併用が心不全ステージのHFrEFの患者さまの標準治療になっているようです。
副作用は、腎機能低下、高カリウム血症、過度の血圧低下、徐脈、尿路感染などに注意します。
高齢者では多剤併用ポリファーマシーが気になります。
専門医の指示を守り、安全で適切な治療を受けることが大切です。
薬剤師の皆様は、この4種類に意味があることをご理解ください。
「心不全」の理解度が求められる時代が、すぐそこまで来ています。