クラリスロマイシンを極めよう!
以下の文章は、各薬剤の添付文書、「抗菌薬の考え方、使い方」岩田健太郎 先生著書、「薬物治療コンサルテーション 妊娠と授乳」(南山堂)などを参考にしています。
アジスロマイシン(ジスロマック®)とクラリスロマイシンの違いは?
アジスロマイシンとクラリスロマイシンはどちらもマクロライド系の抗生物質で、広範囲の細菌感染症に対して有効です。
抗菌作用は静菌的で、殺菌作用が強いペニシリン系、セフェム系やキノロン系にくらべ劣るため、患者さまの免疫力との相乗効果が必要です。
アジスロマイシンは15員環、クラリスロマイシンは14員環の構造を持ちます。
アジスロマイシンは半減期がとても長く、必要な投与量が少ないです。
アジスロマイシンは、クラリスロマイシンよりも胃腸の副作用が少ないようです。
アジスロマイシンはグラム陰性菌に対しても効果的ですが、クラリスロマイシンはグラム陽性菌に対してより効果的です。
アジスロマイシンは内服と静脈内投与に使用できますが、クラリスロマイシンは内服のみです。
アジスロマイシンは妊婦、授乳婦に安全に使用できます。
クラリスロマイシンは授乳婦には安全ですが、妊婦には医師の指示により慎重に投与します。
クラリスロマイシンの特徴
細菌の蛋白質の合成を阻害することにより、抗菌作用を示します。
呼吸器感染症、耳鼻科感染症、皮膚感染症など広い範囲の感染症や、
マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)症を含む非結核性抗酸菌症の治療に用いられます。
肺MAC症は、結核と同じ抗酸菌である非結核性抗酸菌の7-8割を占めるMAC( Mycobacterium avium complex)菌による呼吸器感染症のことをいいます。 結核菌と違い、MAC菌は人から人には感染しないとされています。
クラリスロマイシンはエリスロマイシンの誘導体であり、酸に対して安定であるため、経口投与できます。
クラリスロマイシンは経口投与によって腸から吸収されやすく、半減期が比較的長く(作用時間が長い)、組織への移行性も高いです。
クラリスロマイシンは主に肝臓で代謝され、その代謝産物の一つである14-ハイドロキシクラリスロマイシンは、クラリスロマイシンのほぼ2倍の抗菌活性を持っています。
クラリスロマイシンは抗菌作用以外にも、免疫の調整や炎症を抑制する作用などが知られています。
クラリスロマイシンは胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因となるヘリコバクター・ピロリ菌の感染治療に用いられます。
アレルギーを起こすことが少なく、ペニシリン系やセフェム系抗生物質にアレルギーのある人にも注意して使用できます。
クラリスロマイシンの慢性副鼻腔炎に対する効果
クラリスロマイシンは慢性副鼻腔炎の原因となる細菌の増殖を抑える働きがあります。
クラリスロマイシンは慢性副鼻腔炎に対して常用量の半量を、原則として3か月間投与する「マクロライド少量長期投与療法」が、日本鼻科学会のガイドラインで推奨されています。
クラリスロマイシンの併用禁忌(2024.1.14現在)
ピモジド(オーラップ®)
クリアミン®配合錠(エルゴタミン製剤)
スボレキサント(ベルソムラ®)
ロミタピド(ジャクスタピッド®)
タダラフィル(アドシルカ®)
チカグレロル(ブリリンタ®)
イブルチニブ(イムブルビカ®)
フィネレノン(ケレンディア®)
イバブラジン(コララン®)
ベネトクラクス(ベネクレクスタ®)
ルラシドン(ラツーダ®)
アナモレリン(エドルミズ®)
イサブコナゾニウム(クレセンバ®)
これらの薬はクラリスロマイシンと併用すると、重篤な副作用や薬物相互作用が起こる可能性があるため、絶対に併用しないでください。
これらの薬以外にも心不全の薬、血圧の薬、血栓の薬、糖尿病の薬、コレステロールの薬、睡眠薬、鎮痛薬などの一部でも、クラリスロマイシンと併用すると副作用のリスクが高まるため、注意が必要です。
今回は、処方が比較的多いクラリスロマイシンを中心にご紹介しました。
併用禁忌は、スボレキサント(ベルソムラ®)、フィネレノン(ケレンディア®)、ルラシドン(ラツーダ®)あたりは要注意だなと感じます。
私の経験では、アジスロマイシン(ジスロマック®)は、より重症の場合に処方されていると思います。
病院勤務時代は、原因菌不明の重症感染症ならば、まず検体(血液2ヶ所以上、尿、痰など)を複数採取し、
エンピリック(経験的に)カルバペネム系(広域)抗菌薬とアジスロマイシンが点滴投与されていました。
その後、培養結果を基に原因菌にフォーカスした狭域抗菌薬へ変更します。(デエスカレーション)
デエスカレーションとは、エスカレーターを登るという意味で、より抗菌スペクトルが狭い抗菌薬へ変えてピンポイントに治療することです。常在菌への影響をできるだけ減らします。
アジスロマイシンは、1回だけ服用する感染症などもあるため、また別の機会に詳しくお話します。
マクロライド系の新薬がないのは心配ですね。
貴重な抗菌薬です。
以上、ご参考になれば幸いです。