近年、医療の進歩は目覚ましいものがありますが、特に糖尿病治療薬の分野では、「マンジャロ注」の登場が大きな話題を呼んでいます。
この薬は、従来の糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬の作用に加えて、
GIP受容体にも作用する世界初の「持続性GIP/GLP-1受容体作動薬」という全く新しいカテゴリーの注射薬です。
その強力な血糖降下作用と、臨床試験で示された顕著な体重減少効果から、多くの患者さんや医療関係者に希望をもたらしていますが、
新しい薬であるからこそ、「適正な使用」が何よりも重要視されています。
では、現在、このマンジャロ注はどのように使われるのが「正しい」とされているのでしょうか?
そして、それを守るためにどのような注意が促されているのかを見ていきましょう。
マンジャロ注の「適正使用」の基本:誰のために、どう使うか
マンジャロ注の日本国内での正式な効能・効果は、「2型糖尿病」のみです。(2025年11月現在)
1. 治療対象は「2型糖尿病」患者さん
これが、まず最も重要なポイントです。
適応症の厳守
2型糖尿病と診断された患者さんが、食事療法や運動療法を十分に行っても血糖コントロールが不十分な場合に、医師の判断で導入されます。
「痩せ薬」としての使用はNG!
マンジャロの持つ強力な体重減少効果が注目され、一部で美容・ダイエット目的での使用(いわゆる適応外使用や自由診療)が話題になることもあります。
しかし、日本の公的医療保険が適用されるのは「2型糖尿病」の治療に限られます。
このため、日本糖尿病学会や製薬会社からも、美容・痩身目的での適応外使用に対する強い注意喚起が繰り返し行われています。
美容目的での使用には、
専門家は適正使用の徹底を強く推奨しています。
2. 正しい「用法・用量」と投与スケジュール
この薬は、週に1回、皮下に自己注射します。
自己注射は難しいものではありませんが、正しい手順とスケジュールを守ることが効果と安全性のために不可欠です。
開始と増量の段階的ステップ
通常、週1回2.5mgから開始し、4週間投与します。
その後、週1回5mgに増量し、これが維持用量とされます。
効果が不十分な場合、患者さんの状態を慎重に確認しながら、
4週間以上の間隔で2.5mgずつ増量できますが、最大用量は週1回15mgまでと定められています。
この段階的な増量(タイトレーション)は、特に吐き気や下痢といった消化器系の副作用を最小限に抑えるために非常に重要です。
投与日と投与部位のルール
投与は毎週同じ曜日に行うことが原則です。
注射部位は腹部、大腿部(太もも)、または他人に打ってもらう場合は上腕部(腕)が推奨されています。
毎回、全く同じ場所ではなく、少しずらして注射することが、皮膚トラブルを防ぐための大切なルールです。
最新の「安全性」に関する重要情報と注意点
マンジャロ注は非常に有効な薬ですが、すべての医薬品と同様に、副作用やリスクも存在します。
特に、発売後の臨床現場からの報告に基づいた、最新の重要な注意喚起がいくつか出ています。
1. 高齢者への慎重な投与
日本糖尿病学会からは、発売開始後、特に高齢者において重篤な副作用が認められたケースや、
因果関係が否定できない死亡例が報告されたことを受け、改めて注意喚起文書が出されています。(最新のものは2023年12月付など)
マンジャロ注を投与する際は、医師が特に慎重に患者さんの状態を評価し、きめ細やかな経過観察を行うことが求められています。
2. 重大な副作用への警戒
添付文書にも記載されている、注意すべき重大な副作用があります。
急性膵炎
などの症状が現れた場合は、
すぐに投与を中止し、迅速に医師の診察を受ける必要があります。
低血糖
インスリン製剤やSU(スルホニルウレア)薬など、他の糖尿病治療薬と併用する場合に、
低血糖(冷や汗、動悸、強い空腹感など)のリスクが高まります。
併用時は、低血糖対策としてブドウ糖や糖質を含む食品を常に携帯することが必須です。
腸閉塞を含むイレウス
の症状が出た場合も、投与を中止し、速やかに適切な処置が必要です。
3. 体重減少に関する注意
マンジャロは体重減少を伴いますが、
過度の体重減少は栄養状態の悪化や他の健康問題を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
医師は体重の変化を綿密にチェックし、必要に応じて用量の調整を行います。
適正使用を支える医療現場と患者さんの連携
マンジャロ注の適正使用は、薬の力だけでなく、医師、薬剤師などの医療専門家と、患者さん自身との密接な連携によって成り立っています。
専門家による管理
医師は、患者さんの合併症(膵炎や甲状腺疾患の既往など)、併用薬、年齢、BMIなどを総合的に評価し、投与の可否、用量、増量のタイミングを慎重に判断します。
特にインスリンから切り替える場合などは、内因性インスリン分泌能力の確認など、専門的な検討が強く推奨されています。
患者さんの役割
患者さん自身は、薬の正しい打ち方、週に1回の投与曜日、注射部位のローテーションなどの基本ルールを守り、
特に胃腸症状や体調の変化を詳細に記録し、定期的な診察時に医師に伝えることが非常に重要です。
「吐き気があるから自己判断で注射をやめた」「痩せたいから勝手に用量を増やした」といった自己判断は、
効果の減弱や深刻な副作用につながるリスクがあるため、絶対に避けるべき行為です。
まとめ
マンジャロ注は、2型糖尿病治療に革命をもたらす可能性を秘めた素晴らしい新薬です。
その適正使用は、「2型糖尿病という適応を守り」「定められた用法・用量を段階的に遵守し」「重篤な副作用の兆候を逃さず」治療を進めることに尽きます。
特に、その強い体重減少効果からくる美容目的の不適切な使用に対しては、医療全体で厳しく目を光らせています。
この薬の恩恵を最大限に引き出し、安全に治療を継続するためにも、
患者さん一人ひとりが医師の指示をしっかりと守り、体調の変化を医療チームと共有する意識を持つことが、
今、最も求められている適正使用の姿と言えるでしょう。
以上、ご参考になれば幸いです。
